11eyes CrossOver

 

 

一言レビュー

ヒロインはおまけ、総てはシナリオの為に

 

グラフィック 10点
シナリオ 7点
ボリューム 9点
快適さ 7点
満足度 7点
総プレイ時間 76時間
総合評価 79点

 

 

姉、皐月菊理が自殺してから5年。

皐月駆は暗鬱とした生活を送っていた。

遺書もなく、唯一の肉親である姉が突然自殺した原因は

自分にあるのではないかと考えた駆は、

幸せになってはいけないのだと思い込み、

自殺はしないが生きているとも言えない状態で陰鬱な思いを抱え、

幼馴染で駆への好意を隠しもしない水奈瀬ゆかと虹陵館学園へ通っていた。

 

そんな駆の心境を一変させる、ある出来事が起こった。

ゆかと久しぶりに遊びに行った帰り道。

突如として襲った地震に気を失い、

ゆかと二人しばらくたって目覚めたそこは、

いつもの綾女ヶ丘ではなかった。

無人の綾女ヶ丘の空は赤黒い深紅へと染まり、

真っ黒な月が空に浮かび、街を無数の化け物たちが跋扈している。

そしてこちらを認識するや否や、

圧倒的な力でもって襲ってきた化け物からゆかを守って逃げ出し、

懸命に学校へ転がり込み、追い詰められたその時。

ガラスが砕けるような音で元の世界へ戻っていた。

 

自分はともかくとしてゆかを守らねばならないとの思いを抱え、

同じようにして赤い世界へ閉じ込められていた異能を持つ男女と出会い、

幾度となく赤い夜へ強制的に放り込まれて戦うことを強いられるうちに、

駆の心境は目まぐるしく変わっていくことになる、という

「罪と罰と贖いの少女」編。

 

それと同時進行で行われていた、

ドッペルゲンガーを見ると失踪するという、

都市伝説のような事件に巻き込まれることになった、

自分が現代魔術師であることをひた隠しにし、

目立たない一学生を演じている天見修を主人公に据えた、

「虚ろなる鏡界」編という、

大きく2つに分けられるシナリオが盛り込まれています。

 

メインシナリオの「罪と罰と贖いの少女」編は、

バトルメインのストーリーかと思うとそうではなく、

日常の生活も丁寧に描いた作品で、

緩急つけたシナリオはなかなか良いのですが、

日常パートを丁寧に描きすぎているきらいがあり、

いささか間延びしている感は拭えません。

安穏とした日常パートがあるからこそ緊迫感溢れる戦闘パートや、

絆の強さが生きると言えばそうなのですが、

長すぎるプレイ時間やまったりと続いていく日常イベントを見るに当たり、

もうちょっとテンポ良く描いたほうが良かったような気がします。

 

 

「虚ろなる鏡界」編は日常パートをほとんど取っ払ったシナリオで、

テンポは非常に良い分、ヒロインたちがどうして主人公に対して

好意を持つに至るかという部分が圧倒的に不足しており、

こちらはもうちょっと肉付け良くしたほうが良かったと思います。

 

 

そして両シナリオに共通しているのですが、

全ては予定調和に至る一本道のシナリオがメインであり、

ヒロインルートはあくまでもおまけ、

アドベンチャーだからヒロインとのイベントを

少しだけ盛り込んだといった、

ヒロインの薄さがもったいない。

 

どのヒロインでも物語の結末は決まってほぼ同じであり、

途中でほんの少しだけあるヒロインとのイベントと、

エンディング後にどのヒロインと未来を歩んでいくのかといった違いだけで、

ストーリーの95%以上を共通ルートが占めます。

要するに、メインであるシナリオの好き嫌いで、

この作品の良し悪しが決定されてしまうわけです。

 

クロスビジョンといった、この時他のキャラクターが

何をしていたのかといった別視点を見るシステムがあるのですが、

途中で手を止めてわざわざ未読のシナリオを探して見る必要があるのと、

あまりにもたくさんあるので、ちょっとテンポを崩してしまっているきらいがあります。

もうちょっと本編に盛り込んでも良かったのではないかと思います。

物語に肉厚を付けるという意味では良い試みではありますし、

セーブを介さずに見たシナリオ(本編を含む)を

いつでも自由に好きなシーンを見られるという点は良いと思うのですが。

 

 

 

システムはアドベンチャーに必要なものは一通り揃っており、

一見快適に見えるのですが、少しずつシステムの不具合が散見されます。

気になる点は、スキップのあまりの遅さと、

オートモード時の声のある文章表示時のキーレスポンスの悪さ、

そして、進行が止まるというわけではないのですが、

立ち絵が二重写しになるというバグですね。

 

スキップですが、かなり遅い。

立ち絵やCGが変わるごとにまめまめしく止まり、

スピードもかなり遅いです。

メインの共通ルートがあまりにも長いことも相まっていささか苦痛です。

そしてオートモード時の声のある文章表示中、

どのキーを押してもワンテンポ反応が遅れます。

これが地味につらい。

セリフ中履歴を見るときなどは特に顕著で、

何度ボタンを押しても反応しないこともあります。

立ち絵がもう一人のキャラクターと二重写しになるバグは、

特にプレイに影響はないものの、ちょっと驚くものがありますね。

 

クロスビジョンのシステムで、どれが未読なのかもわかりにくく、

既読は深紅、未読は朱色、オープンしていないものは青色なので、

既読と未読がわかりにくく、説明書にも明記していないので

どれか未読か最初はわからなくて困りました。

そして、セーブデータがプレイ日時とプレイ時間、

表題のみですのでどのシナリオかわかりにくいです。

クイックロードはそれに追加でCGや立ち絵が表示されるため、

どのシーンかとても分かりやすいので、

出来れば通常のセーブもこちらを採用してほしかった。

後は特に問題ありません。

 

 

 

グラフィックは可愛らしく目の大きい絵柄ですが、

綺麗さもきちんと描き分けられており、比較的万人向けです。

立ち絵とCGの顔の違いがちょっと気になるキャラクターもいますが、

色の塗りも丁寧で美しく、概ね綺麗ですね。

背景の美しさ、グラデーションの繊細さは素晴らしいです。

 

そして特筆すべきが立ち絵のポーズバリエーションの多さです。

表情バリエーションもとても多く、

また持っている物が違うという小技の効いた立ち絵も複数存在しており、

端役に至るまでそのバリエーションの多さには驚かされます。

特に菊理の立ち絵が圧倒的であり、

菊理はセリフを手に持っている

スケッチブックに書くという設定になっているのですが、

セリフごとにスケッチブックに書いてある文章が

全部変化(セリフに完全連動)しているのが凄まじかった。

本当にセリフ通りの文字が表示されていたのは目が点でした。

立ち絵に関して並々ならぬ熱意を感じます。

ちょっと気になったのは、立ち絵が一番アップになった時。

ややボケて見えるのが非常に残念でした。

ですが、この作品のグラフィックの最大の特異点は、

次に述べるCG枚数にあります。

 

 

CGの枚数は差分抜きで191枚。

基本的な枚数は、長いプレイ時間を考慮にしても、

かなり多く、十分すぎる枚数があります。

そして素晴らしいのが、差分の多さです。

差分があって当たり前、だいたいの差分が5〜10枚あるという

他作品を圧倒する枚数。

そして最も多く差分のあるCGは、

なんと40枚近くあるという驚異的な差分枚数を誇ります。

戦闘がメインであり、それを生かすためというのもあって

差分が多いのもあるのですが、

あまりの多さに気圧されるものがあります。

きちんと数えていませんが、差分を入れると

700〜800枚ぐらい、下手すると1000枚近く

CGがあるのではないでしょうか。

ここまで多いCG枚数は久しぶりに見ました。

少しある欠点を覆い隠して余りある、

瞠目すべき素晴らしい点だと思います。

 

 

 

プレイ時間は76時間。

全ヒロインエンディングを制覇していますが、

テキストや差分のCGでは一部回収漏れがあります。

バッドエンドはほとんど回収していません。

1週目で55時間、「罪と罰と〜」全ヒロイン終了時点で64時間。

「虚ろなる〜」が1週目終了時点で72時間でした。

 

赤い夜という、闇精霊がうごめき、

それを圧倒的に凌駕する力を持つ黒騎士に

理由を教えられず、絶えず命を狙われる異界に囚われ、

強制的に現実と行き来させられるという、

日常パートと戦闘パートの緩急をつけたシナリオは良かったのですが、

いささか冗長過ぎるきらいがあります。

また、起承転結が完全に決まりきった一本道であり、

ヒロインはあくまでもおまけ、

世界観を彩る一つの要素として

付け加えられているという点も考慮してください。

 

もう少しテンポが良かったらぐっと点数が上がったと思うので、

その点はちょっと残念ですが、世界観やキャラクターが非常に良い作品です。

CGの差分を含めた枚数の多さや

立ち絵のバリエーションの豊富さには

驚異的なものがあります。

他作品もここまでではなくとも、

もうちょっと見習ってCGの差分を多くしてくれればと思うぐらいです。




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