EVE

new  generation

 

一言レビュー

マルチサイトを利用した、巧みな騙し絵

 

グラフィック 7点
シナリオ 9点
ボリューム 6点
快適さ 7点
満足度 9点
総プレイ時間 25時間
総合評価 80点

 

 

内閣情報調査室−通称「内調」。

日本政府の諜報機関、内調のエージェント法条まりなは、

8月9日の夜、ビルの屋上の縁に立つ青年を見て駆けつける。

ナイフを持って屋上のフェンスの向こう側へ立っていた青年は、

「待ってたんだよ」

と囁いた。

 

まりなの必死の説得にも応じず、

意味ありげな台詞を滔々と語った青年は、

テロの起きる現場らしき名称BOJを口にした後、頽れた。

反射的に青年の手を取るまりな。

青年はまりなの手を離し、ゆっくりと落ちていった。

百貨店の――10階から…。

 

翌日。BOJ−「日銀」でテロが起こると目星をつけたまりなは、

甲野本部長の制止を振り切って日銀に向かった。

 

 

対して、しがない探偵家業を倉庫の片隅で続ける天城小次郎は、

8月9日の夜、買い物帰りに一人の少女に出会う。

長い黒髪を潮風に流し、白いワンピースを靡かせた少女は、

小次郎の落としたパッションフルーツを拾い上げた。

 

果物を返してもらおうとする小次郎から、さらう様に少女を

連れ去る中年の男の手から、少女を助けた小次郎は、

中年の男の正体が、日銀の幹部であることを知り、

何かに導かれるように日銀へと向かった。

 

 

違う事件を追っているかのように見える二人の主人公の行動が交差し、

時にリンクし、行動を共にする。

EVEシリーズの独特のシステム、「マルチサイト」を上手に利用し、

二つの側面から、一つに繋がる事件の核心に迫っていきます。

 

出始めこそはゆるやかなものの、怒涛の勢いで事件に飲み込まれ、

真実が次々と明らかになっていくストーリー、

綿密な計画の上で実行されたシナリオ、

丁寧に絡められたトリックと、

シナリオライターの格の違いを見せ付けるかのような

見事な展開は、目を見張るものがあります。

続きが気になってやめ時がわからなくなる、

プレイヤーをぐいぐいと引っ張っていく魅力は、

流石としか言いようがありません。

 

EVEシリーズの科学的な所も健在ですね。

いささかトリックに無理のあるものもありますが、

ゲームの中の世界とあれば許容範囲内だと思います。

ただ、終盤近くの見せ場といえるシーンに

弛む所があるのは非常に残念ですね。

 

とにかく人を飽きさせない趣向と、知っても知っても

泉のように溢れてくるトリックや真実は、

プレイしていてとても面白かったです。

初代以降いまひとつぱっとせず、首を捻る所の多かった

EVEシリーズで近年稀に見るヒット作ですね。

やはりシナリオライターの力量は絶大です。

 

 

システムはやや悪い目です。

場面を移動する時のロードの時間は長く、

よく止まってしまったのかと思いました。

セーブデータも日付とシナリオの進み具合が数字で書かれているのみと、

どの場面でセーブしたものかもわかりにくいです。

バックログ機能も一応ありますが、

文字フィールドに一行ずつ表示されるタイプで、

なおかつ遡れる行数が少なく、使い辛いですね。

プレイ後のCG閲覧モードはあるものの、

ミュージックモードが無いと、標準以下と言わざるを得ません。

 

ただ、今までの探偵ものの総当りコマンドを少しでも快適にしようと、

概読メッセージスキップ機能や、

話す、調べる、考える等をコントローラーの□、△、○と

十字キーの組み合わせで代用させることにより、

いちいちコマンドを選択する手間を省いたところは、

私はかなり良い評価をしています。

 

概読メッセージスキップは、スキップされることにより、

そのコマンドを今は選ぶ必要がなく、

他のコマンドを選ぶことで話が進むとわかるので、

ストーリーを進めるのに関係のないコマンドを

何度も選んでしまうという手間が省かれるようになっています。

 

また今は何も起こらないのに無駄に場所を移動しなければならないという

コマンド総当り式のゲームの悪癖を出来るだけ取り除き、

快適にゲームを進め、シナリオにのめり込ませる工夫がなされています。

次に行く場所は大体わかりますし、

ストーリーを進める上で全く関係ない場所は

移動時に殆ど表示されません。

 

マルチサイト独特の、ある一方のシナリオを進めないと、

もう一方が進まなくなるという場合、

サイトチェンジのタイミングを教えてくれるアイコンが出てきますので、

コマンド総当り式でも、かなりストレスなくプレイできました。

 

上で基本的なシステムは及第点以下と書いていますが、

この良い部分で相殺して、7点にしています。

 

 

グラフィックですが、原画家の方の絵は万人受けするタイプです。

この絵師さんの絵が嫌いという方はあまりいないのではないでしょうか。

まろみのあるやや可愛らしい感じですが、

結構魅力的な絵を描かれる方ですね。

エンディングに使われている、絵師さん本人が描かれた絵はとにかく秀逸。

エネルギッシュで、躍動感のある魅力が溢れており、実に良いです。

 

一枚絵のCGは一部絵崩れがあるものの、

比較的絵師さんに近い絵が描かれていると思います。

CGも動きがあるように見せたり、拡大させたりと、

表示の仕方もなかなか良かったですが、

やはりご本人の持つ絵の魅力には及ぶべくもなく、

絵師さん本人が下絵を手がけられていたらな…と何度も惜しく思いました。

 

ただし、立ち絵が絵師さんのものと

かけ離れすぎているのは最大の難点ですね。

別人とまでは言いませんが、とにかく魅力がありません。

小次郎、まりな、弥生、本部長、氷室、エフィと、

主要人物達が乃依、アルトを除く全員が及第点以下です。

考えるに、目が絵師さんのものに比べると、

小さすぎるのではないでしょうか。

せっかくの絵師さんの持つ絵の魅力が台無しでした。

 

そして、立ち絵のパターンは実は一人に付き一つしかありません!

表情は変わるものの、なんとポーズは基本的に一つしかないのです。

立ち絵のポーズが一つしかないアドベンチャーは初めてやりました。

最初からかなりの違和感があり、

終盤までその違和感がなかなかわからなかったのですが、

この事に気づいた時は思わず愕然としました。

手を抜きすぎでしょう…。

 

また、立ち絵の見せ方も下手です。

離れたり、近づいたりすると、大きくなったり小さくなったりするのですが、

遠近感を無視して、元の絵の全身像を無理やり縮小しているので、

かなり場面から浮いていて違和感がありました。

後、皆さん足が短すぎるような気がします。

 

 

正確な時間はわかりませんが、プレイ時間は25時間。

声を殆ど聞きましたので、私のプレイ時間はやや長めです。

声を飛ばされる方は20時間弱ぐらいになるでしょうか。

 

システム面に重大な課題と欠点があるものの、ストーリーは抜群でした。

私が求めていたEVEがほぼそこにありましたので、かなり楽しかったですね。

息つく暇もない展開、次々に押し寄せてくる波と、

立て続けに明らかになっていく真実。

先が気になって時間を忘れて必死になってやってしまいました。

しかし、かなり強引に纏め上げているところも見受けられます。

また従来のキャラクターがあまり活躍しないのは

ファンの方には不満かもしれません。

 

シリーズ物ですが、この作品から始めても大丈夫なものになっていますので、

初めてEVEをやるという方も是非。

かなりオススメな作品です。


HOME    BACK

inserted by FC2 system