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FOOTPRINTS IN THE SAND

 

一言レビュー

ご都合主義が大爆発

 

グラフィック 9点
シナリオ 3点
ボリューム 7点
快適さ 8点
満足度 3点
総プレイ時間 36時間
総合評価 55点

 

 

それは、幼い頃のある夏の日々。

 

都会の進学校から田舎の学校へ転校した弘瀬琢磨は、

会った事もない叔父の住む田舎へ一人、預けられた。

目は見えず、色は想像すら出来なくなって久しく。

目が不自由な彼が田舎で出会う少女達。

 

その中でひときわ異彩を放つ少女、小日向はやみはどこまでも孤独なまま、

因習に基づき村全体に虐げられていた。

クラスメイト達に白い目で見られ、避けられる少女。

何故虐められるのか理由を知らない琢磨は、

何とか仲を取り持とうとするが、

そこに出来た溝は深く、長かった。

 

全員にはやみに関わらない方がいいと忠告されるが、

決して聞き入れず、頑として引かない琢磨の過ごした、

子供が子供のままでいることを許されたひと夏の、

ある田舎での鮮烈な記憶の日々の物語。

 

 

主人公琢磨は全色盲で、全盲…だと思います。

どうしてあやふやなのかと言いますと、

どちらかハッキリと判別が付かないからです。

丁寧にテキストを見ましたが、

「光を失った」「見えない」と書かれているにもかかわらず、

以前いた学校では物の輪郭ぐらいは見えていたらしい記述があり、

転校前も後も普通の学校でほぼ普通に授業を受けておりますし、

点字を使っている様子もありませんので、どっちか分からないのですね。

また、一人でほとんど不自由なく村や学校を歩き回っており、

教科書を「 見ている 」というシーンがあるため、

どっちなのか首を傾げる事しきりでした。

雰囲気から察するに、辛うじて見えているとしても、

ものの輪郭ぐらい、というところでしょうか。

 

設定自体があやふやで、確立されていません。

コンシューマ版ということでその辺に規制が入ったのかもしれませんが、

多少なりとも見えているのならそういう風に見えている、

全く見えていないのなら見えてないと、

キッパリと表現していき、

その特殊な設定を全面的に押し出していくべきでした。

結局どちらなのか分からず、イライラさせられることがしばしばあり、

その設定をストーリー中で生かせているようにも感じられません。

また、一応夏なのですが、季節感がほとんど感じられません。

夏ならば夏らしさを表現し、ストーリーの中に織り交ぜて、

村での鮮烈な出会いを演出すべきだったのではないかと思います。

 

そして各ヒロインルートで必ず見受けられる、

ご都合主義がひどすぎますね。

ご都合主義がそこかしこで大炸裂。

はやみの問題は深く、非常に重いのですが、

水戸黄門の印籠を振りかざすが如き安易な解決方法には

開いた口がふさがらなかったぐらいです。

各ルートでのはやみの問題の解決方法は、

水戸黄門か、あやふやなままに終わるかの二極に分かれていて、

結局主人公がそこにどのような役割を果たしたのか、いま一つ分かりません。

解決した、解決しなかったに関わらず、

主人公が頑張ったのでこの成果になった、というのならともかく、

主人公のしたことはほぼ空回り状態。

シナリオライターがここをどうしたかったのかさっぱり分かりませんでした。

こういう「 ここに焦点を当てるべきところ 」を簡単にスルーしているところが

この作品のストーリーの悪いところであり、

重い題材を用いているわりには全く生かされていない典型的な所です。

 

そして結局はどのルートでも目が見えるようになり、

色彩も感じられるようになるのですが、

「え、これだけで見えるようになっていいわけ?」

と思うような、とても小さなきっかけで大体が見えるようになります。

子供の頃、視力が安定していないが故に起こった悲劇や、

色彩が感じられない理由等、重い設定があるのですから、

こんなに簡単に見えるようになるべきではありません。

ここにこそドラマチックな演出をするべきところなのに、

これでは正直拍子抜けです。

重い設定を用いているにもかかわらず、

その取り扱い方が非常に軽いことが随所に見受けられる、

設定の展開の仕方が致命的に間違っているストーリーでした。

ハッキリ言って失格です。

 

後は一番長い共通ルートが小学生時代である、ということでしょうか。

要するに、子供の淡い恋愛を中心に描いているのは好き嫌いが分かれます。

かなり後半部分で大人になってからの再会が描かれるのですが、

ストーリーの組み立て方は良いものの、いささか短い(2日程度)のが気になりました。

子供時代をもうちょっとコンパクトにし、

再会後を長く描いた方がよかったのではないかと思います。

その点はアフターストーリーで幾分補完されてはいるものの、

ちょっと付いていけなくなる、都合の良すぎる超展開もあるのは好みが分かれます。

 

PS2版で追加されたヒロイン達にはアフターストーリーがなく、

また本編のヒロインとの再会後のお話も短すぎ、

展開が速いのは明らかな手抜きです。

再会後がこのストーリーのキモだと思うので、

もう少し丁寧に描いて欲しかったですね。

 

また、琢磨の目が見えない理由が

とあるヒロインのアフターストーリーの最後の最後で、

しかもポッと出の、かなり怪しい人物の独白で一気に明かされたのは唖然。

そういう設定があるのならば、ストーリー中で事細かに伏線を張り、

ヒロイン達の本編シナリオで少しずつ解き明かすべきでした。

とにかくこの手の軽薄な展開が非常に目に付く作品です。

設定自身は光るものがあるのに、

それを確実に間違った方向に使ってしまっているのは

この作品の一番駄目な部分です。

 

 

システムはなかなか良く、細かに設定も出来、かなり快適です。

オートセーブ機能もあり、各ヒロインでも章毎に再開可能と、

セーブにおいてはかなり丁寧に使いやすく作られていますね。

とにかくあって便利だったのが、

システム画面でPS2本体の電源を切れることでした。

 

ちょっと気になったのがバックログの見難さと

選択肢の異常な多さとスキップ時のもったり感でしょうか。

バックログの文字のシルエットがグレーな為、

文字自身がぼやけて見辛かったです。

通常のテキストは見やすかったので、

バックログのみこの仕様にしたのは謎です。

 

ヒロインルートへの分岐は非常に分かりやすく、

目当てのヒロインの好むような選択肢を選べば簡単に

そのヒロインルートへ分岐するのですが、とにかく選択肢が膨大。

ラストまでで一ヒロイン80ぐらいの選択肢があるのは

ちょっと多すぎるのではないかと。

ここまで増やす必要はなかったと思います。

 

スキップですが、ちょっと遅いです。

立ち絵のポーズが変わったり、

表示されるキャラクターが変わったりするごとに細かく停止します。

この辺がちょっともったりしていてまだるっこしいですね。

 

問題があったのはそのぐらいで、他は概ね標準以上の出来でした。

 

 

グラフィックですが、ハッキリと鮮やかな陰影を特徴とした、綺麗な絵柄です。

半分ぐらいまではセピア調になる画面を意識したものでしょうか。

やや可愛らしいものの、万人向けの絵柄で

好き嫌いがあまりないと思います。

また、一ヒロイン一人担当という

複数の絵師で絵が描かれているにもかかわらず、

全体的に統一感があり、バランスもきっちり取れていて良いですね。

立ち絵とCGにも違和感なく、綺麗に纏まっていると思います。

 

バランス、色の塗り、構図も良く、丁寧に描かれているのですが…。

ヒロイン達が皆大人っぽすぎなのが少し気になります。

ちょっと小学生とは思えないビジュアルですね。

(そのかわり、大人になっても殆ど姿が変わらないのですが)

大人顔向けの言動ともあいまって、

かなり後まで小学生だと気付かなかったぐらいです。

もうちょっと年相応に描いた方が、とも思うのですが、

本編は五分の四ぐらいが小学生時代ですから、

それでは読み進める気も失せてしまうかもしれません。

 

CGの枚数は差分抜きで約120枚。

クリア時間から見ると、十分な枚数があります。

その内30枚強がデフォルメの絵というのがちょっと気になりますが、

デフォルメの絵も丁寧に描かれており、

まあこれはこれでいいかな、と思わせるものがあります。

漫画形式になっているデフォルメ絵もあり、結構面白いです。

 

 

プレイ時間は36時間。

全ヒロイン、全アフターストーリーをクリアしています。

選択肢のあまりの多さにテキストは全て読破しておらず、

CGは数枚抜けがある状態のクリア時間です。

あまりにもお手軽な超展開・ご都合主義大炸裂に、

コンプリートする気も失せました。

コンプリートするのなら、40〜50時間ぐらいでしょうか。

膨大な選択肢が全コンプをしようとする気すら削いでしまいます。

 

とにかく重い設定の取り扱い方を

致命的に間違ってしまったストーリー。

どこもかしこも中途半端で軽い展開、ご都合主義が大盛り。

 

今まで色々なアドベンチャーのレビューで

「ご都合主義」というのを書かれているのを見て、

「そうかな?」と思ってきた私が、呆れるぐらいのご都合主義炸裂な展開は

かなり致命的なストーリーと言えるかと。

手軽に重い設定を用いてはいけないという、

見本のようなストーリーでした。

絵買いする、というのならともかく、

ストーリー重視の方は絶対に手を出すのを止めておくべきです。

絵とシステム以外は見るべきものもなく、

非常に期待はずれな作品でした。




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