ICO

 

一言レビュー

全てのストーリーと思いは、プレイヤーの心の中に

 

グラフィック 10点
シナリオ 10点
ボリューム 2点
快適さ 9点
満足度 10点
総プレイ時間 8時間
総合評価 96点

 

 

イコは生まれた時から頭に角が生えていた。

村のしきたりにより、角の生えた子供は海の上の無人の城に

生贄としてささげられることになっている。

イコの13歳の誕生日、3人の神官達に城に連れてゆかれ、

城の中にある沢山のカプセルの中の一つに入れられて、置き去りにされた。

 

それからしばらくして、城が揺れ始め、

それに合わせて揺らした、イコのカプセルが転げ落ちてその衝撃で蓋が開き、

イコは床へと勢いよく投げ出された。

しばらく気を失っていたものの、

怪我もなく起き上がったイコはあても無く城を彷徨い始め、

ふと、大きな鳥籠のような檻に入れられた白い少女を見つける。

 

突如として床より沸き出でて

少女に襲い掛かる黒い影を棒で追い払い、

何とかその檻より少女を助け出すことに成功したイコは、

彼女の手を取り、この城から逃げ出すことにした。

 

言葉の通じない少女と共に手を取り合い、

共に協力し、少女を守りつつ城を脱出するという、

脱出アクションアドベンチャーです。

 

 

ストーリーが実に良いと評判の今作ですが、

実際ストーリーと呼ぶべき物は殆どありません。

説明書の方が詳しいぐらいです。

ですので、雨のように降り注ぐ沢山の感動する台詞、

心温まる豊富なエピソードを期待していた方は肩透かしを食らうと思います。

 

ですが、ストーリー性はほぼ皆無であるにもかかわらず、

そこにはきちんと物語があります。

台詞も、登場人物も数えるほどしかないのに、

一篇の物語を読んでいるかのような、繊細なストーリーが確かにそこにあります。

無駄や過剰、華燭を一切排除し、

必要最低限まで、ギリギリまで削ぎ落としたシンプルさの中に、

宝石のような輝きがある。

 

あれだけの台詞でこれほどまでに、

ストーリーを語れるとは思ってもみませんでした。

実際、全員分の台詞を書きとめてみれば、

A4用紙でも余裕で紙が余ると思います。

 

手を繋ぐ、一緒に協力して進む。

後で理由を述べますが、そこに重要な意味があります。

無言でも、言葉が分からなくても、そこには確かに思いがある。

実に見事です。

 

 

ゲームの種類は脱出アクション。

操作自体はそれほど難しくはありませんが、謎解き自体は高レベル。

ヒントも殆どありませんし、とある部屋に入ってそこから進めなくなり、

部屋をぐるぐると回り続けることもしばしば。

少女が視線やしぐさでヒントを教えてくれることもあるのですが、

それも全部は教えてくれません。

 

イコはかなり丈夫であり、普通の人なら

落ちれば確実に死ぬような高さから落ちても、

尻餅をつくぐらいでなんともありません。

それも限度があり、相当高いところから落ちてしまうと

ゲームオーバーになるのですが。

 

ですが少女はそうもいきません。

要するに、イコが先導し、パズルのようになっている仕掛けを動かして、

少女でも渡れるような道を作り、

時たま少女を連れ去ろうと襲い掛かってくる沢山の黒い影を棒や剣で追い払いつつ、

一緒になると手を繋いで進むというシステムになっています。

中には少女にしか動かせない仕掛けもあり、

少女とイコが二人で協力しなければ動かない仕掛けもあります。

これがかなり良いシステムです。

 

少女は大部分で足手まといであり、

イコなら難なく進めるのに、少女のために仕掛けを動かして先導し、

黒い影から守ってやらなければならなりません。

少女が黒い影に、床の黒い水溜りのようなものの中に

完全に引きずり込まれてしまえば、ゲームオーバーになってしまいますので。

最初の頃はそれを煩わしくも思うのですが、

その内なんとも言えない感情がプレイヤーの中に芽生えてきます。

 

少女は確かに、イコには通れる所、

渡れる所、登れる所についていけないのですが、

懸命にイコに応えてついて行こうとします。

言葉は分からなくても、イコが呼べば走って来てくれますし、

目も眩む高い場所で、落ちれば間違いなく死ぬような所でも、

何とか自分でも飛び越えられる場所ならば、一生懸命飛び越えて来てくれます。

無事に着地できず、腕だけでぶら下がるような、

胆の冷えるような状態になったとしても、

イコが呼べば頑張って飛び越えてきてくれるのです。

乱暴にイコが手を引っ張って走っても、

半ば引きずられつつも何とかついて行こうと必死で走ってくれますし、

そのようないじらしい少女を見て、

少女を襲って連れ去ろうとする影より少女を守っていく内に、

プレイヤーの心の中に、確かに芽生えてくる思いがあるのです。

 

確かにこれは、うなるものがありましたね。

実に上手いシステムです。

このシステムがあるからこそ、上記のような台詞の少なさでも、

プレイする者に感動を与えることが出来るのです。

ストーリーを絶賛させるものがあるのです。

 

「 全てのストーリーと思いは、プレイヤーひとりひとりの心の中に。 」

 

そういう開発者の言葉が聞こえてくるかのようです。

ほとんど何もないけれど、プレイヤーひとりひとりの中に

それぞれに生み出されたストーリーがある。

ゲーム中で与えられるのは、必要最低限の設定のみ。

その設定を元に、ストーリーを心の中で自由に組み上げ、展開してゆくのは、

ひとりひとりのプレイヤーなのです。

 

ですので、その思いを汲み取れない、感じ取れない、想像できない人には、

非常につまらないゲームになってしまうと思います。

ICOに必要なのは想像力と人生経験。

そういう意味ではどちらかと言うと高年齢層向けですね。

とにかく何もない、と言ってしまっては語弊がるのですが、殆ど何も無いのです。

ICOのストーリーは、プレイヤーが心の中で生み出して、

補完していくものなのです。

最初は何故?と思うようなICO独特のアクションと、

ストーリーには密接な関係があり、

それを元に物語が生まれてゆくものだとは、思いもしませんでした。

 

 

グラフィックは大変素晴らしい。

本当にCD−ROMか?とディスクをまじまじと見たぐらい、

自然のうつくしさが繊細に表現されています。

人物のグラフィック自体あまり出来は良くありませんが、

自然美、建物の美しさがずば抜けています。

 

水のせせらぎ、風やイコが泳ぐのにあわせて

木々を鏡のように映しながらも揺らぐ水面、

城のあちこちで遊ぶ小鳥たち、降り注ぐ陽光と、

自然そのもの、古式蒼然とした城の有様が、

これでもかといわんばかりに丁寧に描かれています。

 

城そのものは広いものの、左右対称の造りのため、

マップ数そのものはさほど多くは感じませんが、

上下に長く何層にもなっているため、飽きることはありません。

見上げるような建物や木々などの自然は

思わずプレイする手を止めて魅入ってしまうほどですね。

 

 

そして意外だったのが、音楽がほぼ廃されているという事。

本来ならばマイナス要素になるそれが、非常に良いのです。

音楽が流れるのはセーブやラストシーンなど、

ほんの僅かな限られた場面のみなのですが、

それが自然溢れる城と実に上手くマッチしており、

自然の音、小鳥の鳴き声といった実際の自然にある物音のみが挿入されており、

この世界観に実に合っています。

非常にセンスが良いですね。

 

 

基本的なシステムですが、ローディング等概ね問題はないのですが、

気になったのがセーブポイントの少なさです。

最初は程よくあったのですが、中盤を過ぎるごろから極端に少なくなって、

ゲームを切り上げられなくなり、苦労させられました。

また、ゲームオーバーになってもリトライが可能なのですが、

それが相当前であり、殆どが以前のセーブポイントぐらいから

やり直しになるのがとても面倒でした。

もうちょっと間近に、ゲームオーバーになる直前ぐらいから

再チャレンジできるようにしてくれれば良かったと思います。

後はぐるぐると視点を動かしていると気持ち悪くなるのですが、

これは3Dが持つ独特の弊害ですので、仕方がないですね。

システムで気になったのはそのぐらいでしょうか。

 

 

プレイ時間は、難しい部分は攻略サイトを参考にさせていただき、8時間。

自力で攻略すると、もう数時間かかるでしょうか。

私の場合アクションが苦手ですので、

こういうタイプが得意な方は5時間ぐらいでしょうから、かなり短いです。

ですが、その尺の短さに気付かないぐらい、熱中してプレイできました。

プレイ時間も、この時間ぐらいが丁度良かったと思います。

実際他のPS2ゲームと比べると、

格段に少ないのはプレイし終わってみるとようやく気付くぐらいで、

このICOに関してはマイナス要素になっていないのは不思議ですね。

2週目の要素も殆どないようですし、1週ぐらいで十分かと思うのですが、

このICOの世界に魅了されたのならば、もう一周してみるのも一興かと。

 

とにかく、全てはプレイヤーの中にあるゲーム。

殆ど何も無いのに、確かにそこにある。

無い中に、開発者のその思いが込められた、とても素敵なゲームでした。

ゲームとしては異色尽くめなのですが、それがICOの魅力なのです。

普通のゲームのように、何もかもがあって

何もかもお膳立てされていたというのならば、

これほど絶賛されることは決してなかったでしょう。

それはもう、他の幾つもあるアクションゲームと何も変わらないのです。

取り立てて目立つものの無い、

秀でたところがあまりないゲームとして、

沢山あるゲームの中に埋没してしまったことでしょう。

 

全てを承知してなお、良いと思われるのなら絶対買いのゲームです。

これほど「 想い 」を生み出すことの出来るゲームはあまりないと思われます。

素晴らしい作品でした。



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