穢翼のユースティア

Angel’s blessing


一言レビュー
真エンドが賛否分かれる

グラフィック    8点
シナリオ      9点
ボリューム     8点
快適さ       9点
満足度       8点
総プレイ時間  40時間
総合評価     88点

 ストーリー


空中浮遊都市ノーヴァス・アイテル。
かつて世界に終わりが近づいた時、
聖女イレーヌが神に祈りを捧げ、
その願いを受けて舞い降りた天使の力によって、
空中へ浮かぶことにより難を逃れた都市だった。

それが十年前、終わりの夕焼け(トランジェディア)と言われる、
空が紫に染まる光に包まれた時、
下層の一部が崩落し、大崩壊(グラン・フォルテ)が起こった。
崩落した土地の一部は何とか空中に止まったものの、断崖絶壁に囲まれ、
他の層とは行き来できなくなったことから、
後にその土地は牢獄と呼ばれることになる。

王侯貴族からは見捨てられ、救いの手は差し伸べられることはなく、
貧困と物資の枯渇に喘ぎ、無秩序状態になったその土地で、
頭角を現したのがボルツ・グラード。
不蝕金鎖という組織を作り、下層との物資の輸送路を開き、物流を独占、
秩序を自ら築きあげ、何とか牢獄を復興させた立役者だった。

そのボルツ・グラードに幼い頃に拾われて暗殺者として育てられ、
その後暗殺業から足を洗うことを許されたカイム・アストレアは、
ボルツ・グラード亡き後、彼の息子ジークが頭を務める不蝕金鎖の、
危ない面での何でも屋をして生計を立てていた。
ある日、上層から買い付けた、高級娼婦となる女性たちを乗せた馬車が
時刻をかなり過ぎても着かない事に懸念を示したジークに依頼されて、
馬車が通るはずだったルートを見に行くことを依頼されたカイムは、
馬車近くから恐ろしいスピードで飛び出して攻撃してきた黒い影を辛くも回避、
その後に広がる惨殺死体の中で、唯一の生き残りの少女を見つける。
背中に羽が生える羽化病に罹患した少女ティアだった。

事件当時何が起こったのか、
唯一の生き残りの彼女から聞き出すことをジークに頼まれて、
彼女と一緒に過ごしていくうちに、
いつしかこの空中浮遊都市の嘘と謎、
仕組みに深くかかわっていくことになります。

 シナリオ感想

世界観はとってもダーク。
スラム、腐敗、暗殺、暗躍、貧困、暴力、麻薬といった、
負の連鎖に満ち溢れた場所をメインにストーリーは進んでいきます。
複雑な世界観をとても丁寧に築き上げており、その進行は巧み。
どうしようもない現実に足掻き、疲れ、
それでも前に進もうとする人々をとても上手に描き切っています。
どのヒロインも輝いており、世界観の彩りに一役買っています。
世界設定のために踏み台になるのでも、
登場人物の魅力のために世界観が犠牲になるわけでもなく、
両者が絶妙なバランス上で成り立っている手法は巧みで、
彼ら、彼女たちはこの世界を目映いばかりの輝きを放って生きています。

ヒロインルートを経過するごとに、この世界の謎が少しずつ明らかになっていきます。
システム的には、他ヒロインは途中下車、
メインヒロインであるティアはメインルートになっておりまして、
サブヒロインのルートに入らなければメインルートを進んでいくことになります。
他ヒロインルートに分岐するとヒロインと幸せな未来を迎えることを引き換えに、
それ以上の都市の謎を解く扉はばたりと閉ざされることになります。
ですので、先がとても気になるようになっており、
他のヒロインへの扉を次々と開けていきたくなります。

そして謎の大部分が明らかになった時、
初めてメインヒロインであるティアに進むことになるのですが、
彼女の終わりが何とも切ない。
他ヒロインとは幸せそうなエンディングを迎えるだけに、
その対比はあまりにも残酷であり、
この終わり方は非常に賛否が分かれますね。
何とかもうちょっと救いのある終わり方は模索できなかったのかと
思われずにはいられませんが、ご都合主義的にハッピーエンドで終わると、
それはそれでこの作品にある独特の余韻が消えてしまうこともあり、
なんとも難しい終わり方です。
ですので、終わりはハッピーエンドでなければという方は要注意です。

 快適さ

システムはとても快適です。
Vitaでアドベンチャーをプレイするにあたって最大の難点である、
オートモード中に光度が落ちるというのはプログラム側で制御されており、
オートモード中は手放しでも光度が落ちず、
履歴表示中やシステム設定等、画面を動かさない時や
オートモードをキャンセルしてページ送りをしない時のみ
光度が落ちるようになっています。
システムも微に入り細に入り完備されており、
アドベンチャーに必須なものはほとんど搭載されています。

セーブデータもその時表示されていたCGや立ち絵、
セリフが一行のみですが表示され、
どのセーブデータかわかりやすくなっています。
テキスト履歴からのジャンプも可能です。
これでキャラクターごとのボリューム調整、
セーブデータローディング後の以前のテキスト表示、
文字数毎の待機時間設定があれば完璧だったのですが、
それはちょっと贅沢かもしれません。

 グラフィック

グラフィックは可愛らしいタイプの絵柄。
この絵師さんの他作品も見たことがありますが、
描き分けが苦手らしく、他作品でどこかで見たかの人物がいますね。
背景やCGの塗の美しさや繊細さは問題ありません。
ヨーロッパテイストの背景を丁寧に描いており、
背景枚数も多いです。

CGの枚数は差分抜きで約66枚。
ボリュームから見るに全く枚数が足りません。
ヒロインルートごとで開示されるCGは8〜12枚と、
殆どが立ち絵のみで進行するシーンが多く、
プレイ中にかなり物足りなく感じました。
また、1枚当たりのCGの差分も少なく、
あっても2〜3枚がほとんどです。
塗が美しいだけにもったいないと感じました。
せめて100枚ぐらいはCGが欲しく、
差分ももっと欲しかった。

 プレイ時間&総評

プレイ時間は約40時間程度。
時間が表示されないタイプで正確な時間が分かりませんので約の時間です。
ダークで独特な世界観を見事に描き切っています。

世界の謎の展開の仕方も巧みであり、
伏線の回収の仕方もいいです。
深まる謎に思わず食い入るようにプレイしてしまいます。
キャラクター達も見事にこの世界を生きており、魅力的。
素晴らしいストーリーなのですが、
トゥルーエンドが何とも切ない終わりを告げるので、
その辺が唯一の問題点でしょうか。

メインストーリーを終えた後、
どうしようもない悲しい終わりに寝られなくなりました。
どうしてもハッピーエンドでなければ
いけないという方にはとてもお勧めできませんが、
それ以外の方ならば是非勧めたいゲームです。




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