Fate/stay night

[Realta Nua]

 

一言レビュー

凄まじいボリュームと解説に、心と時間の準備はOKか?

 

グラフィック 9点
シナリオ 9点
ボリューム 10点
快適さ 9点
満足度 8点
総プレイ時間 101時間
総合評価 92点

 

 

主人公、衛宮士郎は正義の味方になりたかった。

 

十年前の大惨事。

地獄の業火に燃え盛るそこで、たったひとり、

衛宮切嗣に助けられ、彼に引き取られた少年は、

正儀の味方になりたくてなれなかった、

切嗣の遺志を継いで完璧な正義の味方になりたかった。

 

切嗣は本物の魔術師。

渋る切嗣に食い下がって魔術を教えてもらった士郎は、

義父に向いていないと言われつつ、自身もそれを自覚しながらも

その死後も魔術の鍛錬を止めなかった。

 

そんなある日、学校で魔術師の使い魔同士の戦いを目撃してしまう。

聖杯戦争のことが関係者以外に知られた場合、

死をもってその者を抹消すべし。

その約定に従って殺されかけるところを

もう一方のマスター遠坂凛に助けられ、ほうほうの態で逃げ帰った家に、

先ほど自分を殺しかけた使い魔が再度現れる。

 

死に物狂いで土蔵へ逃げ込んだ士郎の前に突如として召喚されたのは、

青衣の騎士「セイバー」だった。

「問おう。貴方が私のマスターか?」

静かに紡がれる声。

そこから、聖杯戦争が始まった。

 

 

冬木市でのみとり行われる、

聖杯を巡る戦い――「聖杯戦争」にまつわるストーリーです。

7人のマスターが「サーバント」といわれる英霊の使い魔をそれぞれ召喚し、

最後に勝ち残ったマスターのみが得られる、

全ての願いを適えるという聖杯を、

殺し合いながら奪い合うという冬木市独特のシステムを持つ

聖杯戦争を舞台としています。

最後に残る者は誰か? 聖杯とは何か?

というのが大まかなストーリーで、一見複雑に見えますが、

ど真ん中を貫く設定はごくごくシンプルになっています。

実際、細かい設定が複雑怪奇で分かりにくさと説明の長さに拍車をかけていますが、

大筋が分かれば世界設定自体は結構簡単です。

ですが付属の細々とした設定は丁寧に煮詰められており、

世界観の深みは素晴らしいものがあります。

 

また、この聖杯戦争とは何か? 等々の設定をありとあらゆるところで

くどいほどに懇切丁寧に説明してくれるので、

複雑すぎて分からないとか、あっちもこっちも

伏線を回収しきれていないとかはありません。

そういう意味では、大風呂敷をあれほど広げた割には

実に上手く纏め上げられている作品ですね。

 

文章はいささか癖があり、興がのると筆が滑るのか、

戦闘シーンなどはいささか古めかしい文体や詩的な言い回しが多用されており、

そういう意味ではやや読みにくいテキストではあります。

ただしその表現力、語彙力は素晴らしいものがありますね。

私の場合、こういう一般的にあまり使われない文章を読み慣れておりますので、

どうということはありませんでしたが、

ライトノベル系しか読んでいない方は少々きついでしょう。

確かに、上記のような文体が多用されている部分は認識するまでに

時間がかかるため、読む速度ががくんと落ちてしまうのですが。

 

ストーリーの展開はヒロイン毎に全く異なっており、

被るシーンは冒頭の2、3日ぐらいで、

同じシーンに飽きるということはありませんが、とにかく色々な物が長い。

説明も長々と語られるのが如何ともし難く、

もうちょっとシンプルに説明できないものかと

プレイ中唸らずにはおられませんでした。

 

たった3人のヒロインであるにもかかわらず、

そのボリュームたるや凄まじいものがあります。

各ルート2週間ばかりの出来事が語られているのですが、

とにかく一日一日が長い。

設定の組み上げ方、キャラクターの個性の描き方等、光るものが多いのですが、

あっちもこっちもとにかく長いのがいささかネックな作品ですね。

 

あと、主人公が少々問題です。

アドベンチャー系の主人公は、プレイヤーに拒否感を抱かせないため

万人受けするタイプがだいたい当てられるのですが、

士郎の場合強烈に個性的で、自我・意気地が立っています。

どんなにヒロイン達がそれはおかしいと言っても、

自分がダメと思ったことは決して首を縦に振らないところがあります。

彼の設定自体、自分を切り捨ててでも正義の味方になりたいという、

かなりこっぱずかしいことを思っている人ですし、

自分をなかなか曲げようとしない頑迷な主人公を受け入れられない方が多いようですね。

私の場合、受け入れられないというわけではありませんが、

あまりにも正義の味方に固執するのは如何かと思いました。

ただし、全てのルートでそれぞれ異なる、自分なりの結果を

綺麗に出して見せるのは素直に驚嘆しました。

何事も、こだわりをあれほど見事に昇華出来ると

プレイヤーに訴えかけるものがあるのですね。

 

 

システムは高レベルです。

が、ゲーム性はあまりありません。

ルートは完全に固定性で、セイバー → 凛 → 桜の順でないと

攻略できなくなっています。

また殆どの場合、選択肢をひとつでも間違えればBADエンドへまっしぐら。

反対に言えば、直前の選択肢で違うものを選べば大体が良いわけで、

そういう意味ではあまり攻略は難しくありません。

BADエンドへ進んだ場合、タイガー道場という

ヒントコーナー(全40回)へ進めるのですが、

これが本編とは180度異なったギャグテイストで、

大概がかなりエグい死亡エンドで暗ーくなったところを

救うようなところがありますが、

本編とはあまりにも違いすぎる雰囲気に、賛否両論あるかとも思います。

ただ、見ないようにも出来ますので、これはこれで良いかとも。

強引にこしらえた所もありますが、その辺はおまけですのでご愛嬌、でしょうか。

 

 

殆どのシステムは及第点を軽く上回る出来。

スキップも高速ですし、なによりシーンスキップという、

シーンそのものを瞬時にスキップできる機能が実に良いですね。

シーン毎にスキップするか否かをこちらが選べるのも良いポイントです。

オートセーブ機能、音声再生機能も標準装備。

セーブは200箇所出来ると大ボリュームで、

サムネイルが表示されるのも良いのですが、

その時のテキストが表示されないのがやや難ぐらいですね。

 

またオートモード時の文字送りで

とても細かい設定が出来るのも素晴らしい。

とにかくコンフィングメニューの設定はかなり細かなシステムまで搭載されており、

アドベンチャーとしては申し分のないレベルまで

仕上げているのは特筆すべき点ですね。

これで再プレイ時、バックログに前の概読テキストが

表示されていると完璧だったのですが…、

そこまで要求するのは贅沢かもしれません。

 

ただ、最高得点にならないのは、EXTRAメニュー時の操作方法が悪いからです。

まず、CGを表示させた後、キャンセル後に一覧に復帰するレスポンスが遅い。

ボタンを押したのが認識されていないのか? と思うほどの遅さです。

サーバントのステータスが見られるのは良いのですが、

操作方法がいささか複雑で、キャンセルして他サーバントの情報を見るつもりが、

エクストラメニュー画面まで戻ってしまう事が多々あるので、

実に見難い仕様になっています。

これさえなければシステムは満点だったのですが。

 

 

グラフィックですが、アドベンチャーとしてはかなりシンプル感があります。

最もシンプルなのが顔の造作ですね。

とにかく描かれている線が少ない。

そういう意味では、昨今の萌え絵とはかなり違った絵柄ではあります。

身体の描き方、武器・防具の描き方は申し分なく、絵の塗りも綺麗なのですが、

いささかシンプルすぎる顔立ちに好き嫌いが分かれそうですね。

特に目の塗りが簡単すぎるだろう、と突っ込みたくなります。

ご本人の絵よりも、同人などをしておられる方の描かれている絵のほうが

よっぽど上手いと感じてしまうレベルなのはいささか問題だと思います。

それでもどこか人を惹きつける所のある絵を描かれる方ですので、

もう少し、顔の描き方を頑張ってほしいところです。

 

そのシンプルさが特に顕著に現れるのが、立ち絵です。

立ち絵はCGとの違和感もあまりなく、追加のCGも

絵が統一されているのは褒められる点なのですが、

シンプルを通り越して雑にさえ感じられるあの立ち絵は大減点ポイントです。

最初頃はおもいっきり引きましたね。

一週目が終わる頃にはだいぶ慣れてきましたが、

アドベンチャーであれほど荒い立ち絵が表示されるのも珍しいでしょう。

立ち絵の種類の豊富さは素晴らしいのですが、

あのレベルではちょっと…。

もう少し量より質の方へ傾いて欲しいところです。

今後の成長に期待したいところですね。

 

CGの枚数はかなり多く、アドベンチャーではトップクラスです。

背景等を除けば差分抜きで230枚前後。

差分や特殊な背景等を入れれば、軽く500以上あると思います。

この大ボリュームは圧巻。

まあ、シナリオのボリュームもかなりあるのですが。

 

また、CGの魅せ方も実に秀逸です。

特に素晴らしいのが戦闘時のCGの表示の仕方。

アドベンチャーであれほど動きのある表現が

出来るとは思ってもみませんでした。

CGをアップにしたり、絵を激しく揺らしてみたり、

わざとぼやけたようにして動きや戦闘の激しさを表現したりと、見事です。

また、CG三枚分のサイズのある特大サイズのCGの使い方も非常に美しく、優雅です。

表現の仕方、という一点のみを見れば、実に上手いと思います。

使いまわしのCGも確かに多いのですが、

これ以上の枚数を追加するのは無理がありますので、

そこは妥協すべき点でしょう。

 

オープニングムービーですが、ムービー自体は悪くはないものの、

音楽が浮いて聞こえるのがいささか難です。

なんというか、音楽とムービーが完全に分離して、

それぞれ空回りしている感じがありますね。

これは私のTVが悪いのかもしれませんが、

今まで他ゲームでは感じませんでしたので、

このムービー自体に問題があるのだと思います。

何というか、とにかくちぐはぐで、首を傾げざるを得ませんでした。

ムービーも、音楽も、単品で見れば決して悪くないですし、

むしろ良い方なのですが、何故なのでしょうね?

とても勿体なかったです。

 

 

プレイ時間は101時間。

エクストラメニューに総プレイ時間が表示されますので、正確な時間です。

全END(BAD含む)、全CG、タイガー道場(全40回)と

おまけをフルコンプリートしての時間です。

声を全部聞いておりますので、私のプレイ時間はやや長めですが、

声を飛ばしてタイガー道場を見なくても50〜60時間ぐらいはあると思います。

 

全ヒロインを攻略しないと世界観の全てが明らかにならないタイプなので、

一通りプレイすると普通は80〜90時間は堅いですね。

とにかく大ボリューム。

ボリュームが足りないとは口が裂けても言わせない気迫のある作品です。

アドベンチャーでこれほどのボリュームは最高峰レベルでしょう。

とてもボリュームがありますので、

忙しい社会人にはいささか辛いゲームです。

このボリュームはちょっと、という方は手を出さない方が良いでしょう。

 

なんだかんだと欠点もビシビシ指摘していますが、

ほとんどの項目で私の評価9以上を叩き出した

モンスター級(S)レベルのアドベンチャーです。

欠点が致命的なものがあるので、10になりませんでしたが、

欠点を打ち消して尚、高得点を出すだけの質があります。

このシンプルな絵柄と、独特の文体、くどくどしい説明さえ乗り越えられるのならば、

是非ともお勧めしたい作品ですね。

世界観自体はさほど特殊ではないのですが、

とにかく独特の雰囲気を(色々な面で)持つゲームでした。



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