はるのあしおと

−Step of Spring−

 

一言レビュー

万人向けではないが、大人の精神的成長を細やかに描いた優秀作

 

グラフィック 10点
シナリオ 9点
ボリューム 7点
快適さ 10点
満足度 9点
総プレイ時間 40時間
総合評価 92点

 

 

それは舞い散る桜の下で。

「 さようなら 」

告げられた答え。

ずっと好きで、でもその思いを伝えることも無く。

 

教職の免許を取ったものの、どこにも就職できず、

東京でアルバイトをして糊口を凌ぐ日々。

思い続けていたその人は、会社の先輩と結婚するのだと言った。

もう会うことも無いでしょうとキッパリ宣言された主人公、

桜乃樹は傷心を抱え、田舎の実家へ帰ると引きこもり生活を始めた。

 

ある日、家に引きこもり続ける樹を、従妹の悠が学園祭に強引に誘う。

仕方なく学園祭を訪れた樹の目の前で、

叔父でありその女子高の教頭でもある桜乃大樹が突如として倒れた。

人員不足にあえぐその学園で、代替の教師に抜擢されたのは主人公だった。

 

「 いい先生になれると思うよ 」

思い続けていたその人の言葉を胸に、

引きこもりを止めて春までのごく一部の期間、

女子高の教師を務める事を決断する。

 

初めてづくしの中で、みっともなくもがきながらも模索し、

段階を踏みながらもヒロインとともに成長していく様を丁寧に描いた、

大人の精神的成長を描いたストーリーです。

 

 

心理描写はとにかく巧み。

丁寧に、丁寧に、色を塗り重ねて、徐々にうすく淡く、

しかししっかりと色づいていく様を思わせる心理描写は実に細やかですね。

女子高の教師を突如として務める事になるという、

導入部分こそやや目立つものの、ストーリー自体はとても地味で、

目を瞠るような展開はほぼ皆無ですが、

その心理描写の素晴らしさは水際立っています。

 

アドベンチャーでも、どうして主人公がこういう選択をするのか、

何故こういう考えに至ったのかがさっぱり分からないことも

少なからずあるものなのですが、

このゲームは主人公が何を思ってそういう決断をしたのかが

大変分かりやすくなっており、上手にプレイヤーの心を

シンクロさせて物語に溶けこませる手法は見事です。

 

ただ、主人公が簡単に生徒に手をつけるところはちょっと…。

中には好きなのかよく分からないうちに手をつけてしまうこともあり、

その辺は首を捻るところがありました。

18禁からの移植という事もあり、仕方の無いことなのかもしれませんが。

 

エンディングは必ずしもハッピーエンドとは言えないものもあるのですが、

成長の段階を丁寧に踏んで描いているからこそ、

プレイヤーに納得させるものがあります。

実際、私はどちらかといえば終わりはハッピーエンドでないと

嫌な人なのですが、人として並び立つために、

人として成長して生きていくために、

こういう選択の仕方も有りだと思うものがありました。

 

何かを得るためには何かを失わなければならない。

成長するためには少なからず痛みを伴う。

そんなことをしみじみと思わせるストーリーでした。

 

 

システムは高レベルです。

が、ゲーム性は皆無。

序盤に出てくる2〜3つの選択肢でヒロインルートに一気に枝分かれしますし、

どの選択肢を選べばどのヒロインルートに進めるか分かる、

おたすけナビモードを搭載しており、

またキネティックノベルになる、おまかせモードという

選択肢が一切無くエンディングまでとにかく読み進めるのみの

システムも導入されており、ゲーム性はゼロ。

アドベンチャーでもゲーム性を求める方にはかなり苦しいですね。

 

他のシステムはかなり上級レベルですね。

アドベンチャーに必須のシステムは全て揃っており、

どれもかなり使いやすいです。

システム画面は黒板に可愛らしく落書きをしたものをモチーフにしており、

最初は面食らうものの、作風にあっていて雰囲気はいいです。

ちょっと見辛くはあるのですが。

 

そして特筆すべきはバックログのセンスの良さですね。

バックログを表示させると、バックにコルクボードが表示され、

絵が写真風にコルクボードに貼り付けられるという趣向になっています。

左の写真には今現在の絵が、右の写真には

バックログ中の文字が出ている時に表示されていた絵や立ち絵が、

遡って表示されるのです。

バックログを遡れば、更に絵が遡って表示されます。

CGや立ち絵まで遡って表示されるアドベンチャーはそうそう無いと思います。

これならば下部の文字フィールドに

一行単位しかログが表示されないというシステムが非常に生きてきますね。

これがとにかく素晴らしいです。

 

 

グラフィックですが、非常に癖の強い絵柄です。

特にパッケージの絵が顕著で、これを見て

購入をためらう方が多いのではないかな、と思います。

ただ、実際ゲームプレイ中に表示される

CGや立ち絵はかなり癖が緩和されています。

また、絵の塗り、やわらかな光の表現の仕方はたいへん綺麗です。

夕暮れ、朝焼けのオレンジ色のグラデーションや

レンズフレア、光のきらめきが特に美しい。

繊細な色の変化の塗りわけが抜群に綺麗です。

 

立ち絵も豊富で、ころころと人物の表情・ポーズが変わるのはいいですね。

かなりのパターンが用意されており、

中にはこの場面しか使われないのではないか?と思うもの、

いわばその場面専用の立ち絵まで用意されているのは凄いですね。

 

が、絵柄がとにかく幼い。

皆さん高校生、隠しヒロインは成人女性だというのに、

小学からせいぜい中学生にしか見えない絵柄はとにかく人を選ぶと思います。

昨今は萌を売りにしていて、幼い絵が多いとはいえ、これはちょっと幼過ぎます。

もう少し年齢や人物像を考慮して、メリハリをつけて欲しかったですね。

しかし、この幼く癖の強い絵をクリアできれば、

絵としての完成度は非常に高い作品です。

 

ムービーは人物画の絵崩れが激しいものの、

動きはなめらかで美しく、躍動感のあるアニメーションと

背景の書き込みは見事です。

ヒロイン毎のエンディングに個別のアニメーションが

用意されているのもかなり良いです。

 

どうも有名な方がオープニングアニメーションを手がけられているようですね。

背景の書き込みの美しさに見覚えがあると思ったら、

やはり秒速5センチメートルを手がけられた方のようです。

あれは度肝を抜くほど美しい背景でしたね。

 

 

人物のCGの枚数はかなり多く、ヒロイン毎に

同じCGが散らばっており、身体の一部しか表示されないCGも

一枚と数えるにはためらいが有って正確には数えられませんが、

差分抜きで約200枚弱だと思います。

差分や前述の物を入れると400枚を超える大ボリュームで、

全体のCG総数がかなり多いですね。

中には10枚以上差分のあるCGも存在しており、

絵に関する情熱が凄い作品です。

文句の付けようのない枚数です。

 

また、CGの魅せ方も良いです。

一部を表示させ、一気に全体を表示させる手法、

カードをめくるように一部一部を見せていく手法、

アップからロングに緩やかに引く手法と、とにかく見事。

アップにしてもにじまず、全体像と全く遜色無いCGは素晴らしいです。

ここまで絵に関することに贅沢に出来ているアドベンチャーは珍しいでしょう。

 

 

プレイ時間は正確な時間はわかりませんが、40時間。

全ヒロインルート、全CGをコンプリートしての時間です。

声を全部聞いておりますので、私のプレイ時間はやや長めですが、

声を飛ばしても30時間ぐらいはあると思います。

ボリュームはまあまあですね。

 

絵に癖が強すぎて、とにかく幼く、好みがキッパリ分かれます。

ストーリーも挫折から始まるという実に辛い展開で、

身につまされるものがあります。

派手な見せ場も無く、とにかく地味なストーリーの作品ですが、

心理描写、精神的成長の描写は見事です。

随所に見られるこだわりが素晴らしく、

抜群のシステム、絵とアニメーションのレベルも非常に高い作品ですね。

 

お世辞にも万人向けとは言いがたい作品ですが、

丁寧に作られている最優秀作です。

全てのものが高レベルで揃えられている作品ですので、

この絵がもうちょっと万人向けなものだったらと惜しくてなりません。

地味な展開でもOKで、見た目が幼すぎるヒロイン達でも大丈夫な方は是非。



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