果つることなき未来ヨリ

 

 

一言レビュー

死ぬために帰る

 

グラフィック 8点
シナリオ 8点
ボリューム 7点
快適さ 9点
満足度 7点
総プレイ時間 26時間
総合評価 79点

 

 

 

太平洋戦争時、零戦のパイロットだった三森一郎は、

特攻部隊に志願し、自身最後の戦いへ挑んでいた。

今まさに敵艦にぶつかるという直前、

零戦は何処とも知れない砂漠を飛んでいた。

海の真っただ中にいたはずなのに、そこは一面に広がる砂の海。

砂漠に不時着した一郎は、訳が分からないながらも、

親友の遺品である刀を持ち、砂漠を彷徨うことになった。

 

食料も水も尽き、手足がしびれて動けなくなり、

倒れていたところ、話し掛ける者がある。

『 …おい人間、生きておるのなら返事をせい… 』

少々乱暴に起こされた一郎は、声の主に

ここはレナスの東、ドムトレット砂漠の中央だと教えられた。

求めに応じて差し出された水筒に手を伸ばすと、

一郎は一気に飲んでむせ返った。

 

彼女はアークジーン王国第一王女、ユキカゼ。

一郎にとってさっぱり聞き覚えのない国であり、

彼女も日本という国は知らず、また東に国もないと言った。

かみ合わない会話に次第に二人は喧嘩腰になり、

癇癪を起こしたユキカゼは、なんと大きな竜へと姿を変えた。

 

ここは地獄なのか天国なのか。

何れかの意思によるものか、偶然かは知らないが、

異世界へと飛ばされた三森一郎は、

新人種だけで構成され、今まさに世界の覇権を狙おうと

様々な亜人種へ戦争を仕掛けている国、ヴィスラ公国に

反旗を翻しているレジスタンス、バラウールの主ユキカゼと共に、

亜人種の一族たちと同盟を結び、

日本へ帰るために戦い続けます。

死ぬために帰るのだと、それが約束だと、口癖にして。

 

 

主人公は実に癖のある人物ですね。

傍若無人であり、権力者にへつらわず、遠慮がない。

かといってただの乱暴者というわけでもなく、

自分にとって一本筋の通った竹のような真っ直ぐな信念を持つ人物です。

頭がいいというわけではないのですが、

戦術面に関しては非常に長けており、

何をどうすれば人を動かすことができるのか熟知していて、

自分の目的のためには容赦や加減を知らない苛烈さも併せ持ちます。

 

その炎のような信念と、彼の教える戦術に、

次第と周りが魅了されていき、信頼されていくのですが、

とにかく極端な人物であり、人によっては好き嫌いが強烈に出るタイプ。

彼をある程度許せないと少し厳しいでしょう。

 

 

動乱の世界の行く末が実に丁寧に描かれており、

戦乱の世を駆け抜けたキャラクター達の覚悟を決めた戦いぶりは、

目を見張るものがあり、それぞれの命の輝きが眩いばかりです。

丁寧に日常を描いているだけに、

終盤でそれが生きてくるものがありますね。

彼らは彼らの思いを、最後まで貫き通すことができたのではないでしょうか。

 

ストーリーは基本一本道です。

ヒロイン毎にストーリーが変わるのではなく、

終盤ではそれぞれのヒロインが別々の場所へ行くことになるのですが、

そのヒロインのところで何が行われていたのか、

というのがそのヒロインのルートへ進むと明かされるというタイプ。

 

最初の一周は強制でユキカゼルートに行くことになるのですが、

その時に大まかに各種族が何をしていたのかというのが語られているため、

ユキカゼルート以外のヒロインルートにあまり目新しさはありません。

また、ほとんどのヒロインが謎を残すような終わり方をしており、

すっきりしないところがちょっとマイナスポイントですね。

 

後は、ヒロインルートへ入ってしまうと、

他ヒロインはもちろんの事、他ヒロインに深い関係のある人物達も

ほとんどが姿を現さなくなるのも気になりました。

特にユキカゼルートにおける他ヒロイン達とその周りの者達の

フェードアウト具合が顕著です。

このゲームは脇役のキャラクター達が非常に多く、

その総数たるや、アドベンチャー市場トップクラス。

ここまで脇役が丁寧に書かれ、活躍しているシナリオも珍しいでしょう。

彼らも非常に魅力的に書かれているだけに、

ルートごとにバッサリ切り捨てられているのは残念です。

 

 

 

システムは非常に快適です。

ほぼ完璧と言って差し支えないでしょう。

Vitaでアドベンチャーをプレイするにあたって最大の難点である、

オートモード中に光度が落ちるというのはプログラム側で制御されており、

オートモード中は手放しでも光度が落ちず、

履歴表示中やシステム設定等、画面を動かさない時や

オートモードをキャンセルしてページ送りをしない時のみ

光度が落ちるようになっています。

システムも微に入り細に入り完備されており、

アドベンチャーに必須なものはもちろんの事、

あったらいいなというシステムまでほとんど搭載されています。

選択肢までのジャンプはとても便利なのですが、

このゲームは選択肢が極端に少ないので、あまり使用箇所がありません。

巻き戻し機能や、履歴からのジャンプも可能で、

元のPCの色合いに合わせた色合い補正もついています。

 

特筆すべきが、キャラクターごとの音声オンオフはもちろんのこと

各自のボリュームまで調整できることです。

このシステムが搭載されているゲームは滅多にありません。

 

 

オートモード時のスピードは文字時間と

待機時間の両方が設定できるというのが非常に便利です。

普通はテキスト表示後のウエイト時間しか設定できないのですが、

文字数が多いと長めのウエイト時間になり、

長めの文章で後半が読めないということがありません。

 

ただし、ちょっと気になったのが、

オートモード中はこちらでページ送り操作を行ってしまうと

オートモードが強制キャンセルされてしまうことですね。

これさえなければと思うだけに、少し残念です。

 

セーブデータもその時表示されていたCGや立ち絵、

セリフが二行のみですが表示され、

どのセーブデータかわかりやすくなっています。

セーブデータをローディング後の

セーブデータ以前のテキストも表示され、

履歴からのジャンプも可能、

全エピソードもシーン回想で再度読むことも可能と、

至れり尽くせりですね。

 

 

 

グラフィックは綺麗目のあまり癖の無いタイプの絵柄。

二人の絵師を採用していますが、

それぞれのキャラクター達が並び立っても

不思議と違和感がなく、統一感があります。

塗の美しさや繊細さも問題ありません。

空や夕暮れのグラデーションの塗、光の入れ方が非常に美しい。

華のある色合いだと思います。

 

ただ唯一問題なのが、犬族を描くのが苦手だということでしょうか。

アイラは金色の美しくも恐ろしい獣というイメージだったのでしょうが、

そのイメージの崩壊具合が顕著です。

竜族は非常に上手く描かれているだけに、これが唯一の難点ですね。

 

CGの枚数は差分抜きで165枚。

ミニキャラのデフォルメイラストが内14枚です。

ボリュームに対してCGがとても多いですね。

その分表情の差分が少なめです。

立ち絵は安定しており、綺麗です。

CGと立ち絵の差もあまりなく、どちらも魅力的です。

 

 

 

 

プレイ時間は約26時間程度。

時間が表示されないタイプで正確な時間が分かりませんので約の時間です。

全ヒロインをプレイして始めて、

終盤でそれぞれの種族が何をしていたのか細部が明らかになるので、

出来れば全員を攻略したほうが良いかと思われます。

 

ちょっと一本道過ぎる所があるものの、

全体的なクオリティは安定しています。

でも、不思議と優良作になれず、

ぎりぎり佳作止まりになってしまうのは、

ユキカゼルートで全体の大まかなストーリーが

明らかになってしまうから、でしょうか。

また、主人公も非常に癖のある人物であり、好悪が分かれます。




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