ひぐらしのなく頃に祭

カケラ遊び

 

一言レビュー

苛烈を極めるボリュームとバリエーション

 

グラフィック 4点
シナリオ 9点
ボリューム 10点
快適さ 10点
満足度 8点
総プレイ時間 115時間
総合評価 86点

 

 

昭和58年雛見沢村、初夏。

いつもより速い夏の訪れのその年、都会から前原一家が引っ越してきた。

前原家の一人息子、前原圭一。

村の学年混合クラスに瞬く間に溶け込んだ彼は、

都会の進学校での勉強尽くしだった頃では想像も付かないほどの、

はちきれんばかりに楽しい日々を満喫していた。

 

村の人は皆とても親切。

こちらでは女の子ばかりとはいえ、親友が沢山出来た。

クラスでの部活動は過激で、

とんでもない罰ゲームが用意されているけれど、刺激的で楽しい。

都会と比べ物にならないほど不便ではあるが、

都会では到底味わえないきらきらと光る日々がそこにはあった。

 

それが突如として影をさす。

雛見沢での唯一のお祭、「 綿流し 」を目前に控え、

ひそひそと囁かれる噂。

 

一人死んで、一人居なくなる。

 

雛見沢連続怪死事件。

そう名づけられた事件は、決まって毎年、

綿流しの祭りの晩に一人死に、一人行方不明になるというものだった。

雛見沢の歩んできた過去と伝説に起因する鬼隠し。

オヤシロ様の祟り。

綿流しの祭を境に、雪山を転げ落ちる小石のように、

狂気に駆り立てられたかのような、残虐な殺人事件が次々と起こる。

当たり前のように隣にいた親しい友人が、突如として変貌する。

 

殺したのは誰?

惨劇に見舞われる村が生き残る術はあるのか?

 

怒涛のように起こる、殺人事件の中で、

彼らは生き延びる道を、楽しかった日々を取り戻す術を模索する。

幾度歩んでも起こる悲劇。

逃れられない死の迷宮。

惨劇を回避し、生き延びる方法はあるのだろうか…。

 

 

という、一見横溝風の伝説に彩られた村で起こる、

連続殺人事件を軸にお話は描かれています。

とにかく内容はスプラッタと殺人事件。

はっきり言ってしまうと、生き残ることの出来る人の方が少ないです。

ですので、ホラーやスプラッタ系が嫌いな方には向かないでしょう。

 

そして、昭和末期らしさはほぼ皆無。

昭和らしさといえば、携帯やインターネットがない、ぐらいでしょうか?

クーラーがない、というのもありますが、

田舎は涼しいですので、なくてもおかしくありません。

むしろ現代らしさがあらゆるところにちりばめられており、

どうして時代設定を昭和にしてしまったのかは大いなる謎ですね。

無理に昭和にしてしまわなくても、現代でもよかったのではないかと思います。

 

サブイベント、サブシナリオ的なTIPSは大変優秀です。

ストーリーの大筋に組み込んでしまえば物語のテンポを殺してしまい、

無理やり感が付きまとってしまうほどのかなりのエピソードなのですが、

こうしてTIPSとして独立させ、

いつでも読むことが出来るのは、素晴らしいです。

物語の幅が広がってとてもいいですね。

後から実はこうだった! というのがなく、

ストーリーとTIPSの中で

裏設定の類がほぼ語られ、なおかつ

ストーリー本筋の流れを殺してしまわない手法は実に見事です。

 

 

ストーリーは編ごとにわけられており、全10編。

全話ほぼ同じ設定を叩き台に、

これだけのバリエーションを描けたことは瞠目に値します。

相当長い期間、ちょっとずつ話を書けたからこそ、できたことだと思います。

とにかくお話の展開の仕方が巧み。

よくぞこれだけ違った展開が描けたと感心すらしてしまいます。

プレイヤーをぐいぐいとストーリーに引き込んでいく、

勢いのある文章は実に素晴らしいです。

 

そして最終編である澪尽し編での纏め方は上手いですね。

全編にちりばめられた、殺人へ駆り立てる狂気を上手に解決していき、

全員一致団結して事に当たるという展開はかなりいいです。

ただし、小奇麗に纏まってしまっている分、

盛り上がりが小波になってしまっています。

ゆるゆると上り下りして、やっと大山が来たか?

と思うとやや尻すぼみに終わってしまった感じです。

悪くはないが、盛り上がりに欠けます。

 

各キャラクターの心情は細やかに書かれているのは秀でてはいるものの、

ストーリーとしての醍醐味である爽快感、

今まで溜まっていたフラストレーションへの爆発力は

原作の最終編に当たる祭囃し編には及びません。

文章や心理描写自体も、原作者とは趣を異にしてしまっているのも

ややマイナスポイントですね。

 

また、ひぐらしはちょっとファンタジー要素を含んでいる訳ですが、

「祭」において、そこにSF要素を取り入れてしまったのは大失敗だと思います。

最終話ではご都合主義が大炸裂してしまっている点も、

プレイヤーに拒否感を抱かせている最大のポイントですね。

純粋なホラーやミステリーではない事を念頭に置く必要があります。

そういう意味では、リアリティを求めている人には向きません。

 

 

システムは最高レベルです。

やや特殊なものの、ノベルタイプのアドベンチャーとして

必要なものは全て取り揃えられています。

各々が使い勝手の良いようにできているのですが、

とにかく優れているのがセーブとロードですね。

 

メッセージのバックログからの音声再生モードはもちろん搭載、

またバックログから遡ってのゲーム再プレイも出来、

なによりもゲーム再プレイ時、今まで見たテキストが

一番最初から遡って見ることが出来るのがすごいですね。

これが出来るゲームは私がやったアドベンチャーの中でも、さすがに初めてです。

 

シナリオチャートという、分岐や日々ごとのセンテンスに

分かれているチャート一覧からも遡って再プレイできるのも非常に快適です。

どこで話が枝分かれするのかも一目瞭然ですし、

これのおかげで、複数のセーブデーターを持たなくても

いいのはとても優れたシステムだと思います。

 

セーブの仕方はやや特殊で、基本的なセーブはひとつきり。

しかもある一定の間隔で勝手にセーブしてくれるという超快適システム。

ゲームを終わるときはシステム画面から終了を選択すると、

初期画面に戻り勝手にセーブもしてくれます。

もちろん従来どおりのセーブの仕方も可能で、

クイックセーブを選んで任意の場所(100箇所あり)にセーブをすることもできます。

ですがこちらは殆ど使いませんでした。

とにかく先にあげた、バックログからの再ロード、

シナリオチャートからの再ロードがとにかく快適だからです。

セーブ・ロードの仕方は非常に秀逸であり、

ロードも早く、文句の付け所がないほど優れていますね。

この長いシナリオを、少しでも快適に進められる様にとの工夫が随所に見られます。

 

ただしちょっと問題があるのが、強制スキップです。

L2ボタンを押すだけで、概読、未読に関わらず

強制的に全テキストがスキップされてしまうのです。

システム画面で概読のみスキップにしても、

このボタンを押してしまうと否応なく強制スキップされてしまうために、

間違ったりコントローラーを取り落としたりした時に

L2ボタンを押してしまうと、一気にテキストが進行してしまいます。

強制スキップ開始時、本当にしてもいいのかメッセージを出して、

こちらがOKした場合のみ、強制スキップをして欲しかったですね。

 

ただし、上記で上げたバックログからの再ロードが可能であり、

大した痛手もなく再プレイが出来てしまうので、

システムの点数にマイナスはしていません。

 

 

グラフィックですが、アニメ調なものの丁寧に色が塗られており、結構綺麗です。

立ち絵とCGにかなり違和感があり、

別人が絵を描いているのがすぐに分かりますが、

シンプルなラインなものの、目に力があり

各絵共に魅力的で、生き生きとしています。

立ち絵のバリエーションが少なく、絵の質は癖があるものの、

原作の絵の雰囲気を大切にして昨今の可愛らしい絵にはしなかったのでしょう。

 

ストーリーの部分でも語ったのですが、

服装部分に昭和らしさが皆無というのは頂けません。

むしろ現代らしさが大炸裂。

ミニスカートの制服はあの時代には無かったはずです。

特に詩音の普段着であるキャミソールはあの時代には絶対ありえないと思います。

最近でこそ、見せる下着、おしゃれの一環として

普通に着ている女性は多いものの、

実は下着同然のキャミソールのみを、

あの時代に着ることは絶対になかったと思います。

ストラップレスのブラも、あんまり無かったのではないでしょうか。

 

そして、大問題なのがCGの枚数です。

100時間を軽く越えるプレイ時間であるのに対し、

差分抜きで42枚とは驚異的な少なさです。

差分のあるCG自体も少ないですし、

このプレイ時間でこれだけの枚数は少なすぎます。

一編で数枚しかCGがオープンしない時は唖然としてしまいました。

また、とある人物の立ち絵が髪の色を変えて

使いまわしされているのには驚かされました。

十前後の少女の立ち絵を、子供のいる女性の立ち絵に

流用するのはあまりにも違和感がありすぎると思います。

 

もうここまでくると、絵の塗りがどうこうという以前の大問題ですね。

ありとあらゆる所にここに絵が欲しい!というシーンがあり、

とにかく枚数は圧倒的に足りません。

このボリュームでは最低限、差分抜きで120枚は欲しいです。

必要枚数の三分の一では、全然足りませんね。

基準を著しく下回る枚数に、大減点をしてあります。

 

 

プレイ時間は115時間。

全TIPSをフルコンプリートしての時間です。

声をほぼ聞いておりますので、私のプレイ時間はやや長めですが、

声を飛ばしても80時間ぐらいはあると思います。

通常のプレイでは100時間以上は確実です。

とにかく超度級のボリューム。

普通のアドベンチャーの3倍ほどあります。

これを超えるボリュームのアドベンチャーは早々ないでしょう。

時間のない方には非常に厳しいボリュームですね。

忙しい方には絶対に向きません。

 

ルート制限があり、いきなり解決編に進む、ということはないのですが、

PS2版で付け加えられた編は蛇足の一言に尽きます。

中にはかなり広く、浅くネタバレしてしまっている編があり、

何故その編を付け加えてしまったのかは非常に謎ですね。

 

また、最終編の差し替えも首を捻るものがあります。

わざわざ書き直すこともなかったのではないでしょうか。

原作者が書き直した、というのなら納得するのですが、

別人に書かせてしまったのはちょっと失敗だったと思います。

付け加えられた編にも言えるのですが、

雰囲気が少し違ってしまっているのですね。

独特の世界観があり、この世界は完全に

原作者の中で完結してしまっているところがありますので、

他人に書かせるべきではなかったのではないかと。

 

最終編は、心理描写において原作よりも優れている分、

評判ほどは悪くはなかったものの、

どちらかというと原作の祭囃し編のほうが、勢いがあって好きですね。

まあ、この辺は好みにもよると思いますが。

 

このPS2版で特筆すべき点は、声が加わった、ということです。

これがかなりの破壊力です。

かなりの実力派声優で役を固めており、

声が加わったことによるキャラクターの魅力の倍加、

臨場感は目を瞠るものがあります。

とにかく声の演技がすごいです。

しかもこのとんでもないボリューム。

TIPSやお疲れ様会でも、余すことなく声がつけられており、

よくぞこれだけの声の吹き込みをやったと、

声優さん達にエールを送りたいと思います。

特に主人公である前原圭一役の保志総一郎さん。

無印版では一部しか声が吹き込まれていなかったのも頷けます。

 

全体的に満足できる内容だったものの、

致命的なところも内包されてしまった異色の作品。

システム面では非常に優秀で、随所に魅せる所もありますが、

SF・ファンタジー要素を含んでもよく、

なおかつこのボリュームでも大丈夫という方ならばお勧めしたい作品です。

原作プレイ者は、声が聞きたい、

あるいは魅音ファンというのならば…というところですね。



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