羊の方舟

 

一言レビュー

氷の煌めきのような物語

 

グラフィック 5点
シナリオ 9点
ボリューム 4点
快適さ 7点
満足度 9点
総プレイ時間 6時間
総合評価 75点

 

 

それは今から100年ぐらいの先のこと。

世界には異能者と呼ばれる人物がぽつぽつと現れだしていた。

その中でも特殊なのが、レス、アンチと呼ばれる能力者たち。

彼らはある特定の物を消したり、壊したりといった暴力的な力とともに、

必ず共通したある一つの能力を併せ持っていた。

自分が受けた暴力を同じだけの力で跳ね返すという特殊な力。

その能力によって、彼らは誰にも傷つけられなかった。

 

2104年、合衆国の某所。

その特殊な力を持つ者たちが、政府のとある地下施設に集められていた。

責任者から語られたのは、荒唐無稽で、

何かの映画で見たことがあるような出来事だった。

地球に巨大な隕石が近づいており、7日後には確実に地球に落ちる。

サイズは地球の百分の一であり、もし落ちれば確実に地球は破壊される。

ありとあらゆる武器で隕石を破壊したとしても、欠片は数キロに渡り、

落ちた多量の欠片のせいで地球の全ての生物は死に絶えるということだった。

 

人類に最後に残されたのは、アンチ、レス系の能力者をシャトルに乗せて、

隕石に向かって打ち出し、彼らの力をもって

隕石を跡形もなく破壊するという手段だった。

シャトルに乗った者は、もちろんその後の命はない。

確実に乗せられるのはクローニング技術により

シャトルに乗り込むためだけに作られた能力者、

生まれて数週間で言葉も話さない少女サイファ。

彼女一人だけでは確実ではなく、必ずもう一人以上必要であり、

集まった三人の中で最低限誰か一人に乗ってもらうことになる。

その一人、ないしは一人以上を候補者たちで決めてほしいとのことで、

選ぶ方法は彼らが納得しさえすればどのような物でも構わないとのことだった。

誰がシャトルに乗り込むのか、話し合いという名の死のゲームが始まった。

 

 

という、最初から著しく救いのないストーリーです。

彼らは密閉空間に閉じ込められているのですが、

生活に関することには不自由しないように贅沢に物資が集められています。

人も、物も、望めば出来るだけ叶えられるように取り計らわれています。

もちろん三者三様死にたいわけではありません。

残された日にちは7日間。

その中で皆が納得する形で誰を生贄にするか決めなければいけません。

とにかく閉塞感があり、死が決定付けられているストーリーはー淡々と、

しかしどこかしら生への渇望を散りばめて、

光の角度によってはきらきらと輝く、

不純物のない透きとおった氷の輝きのように語られていきます。

静謐で、暗く冷たく灰色に、しめやかに散り砕けるように進んでいくお話は秀逸。

 

三者の別々の角度で一日一日を綴っていくわけですが、

あまり被る文章もなくテンポ良く、

しかし、各人物と彼らを取り巻く人々の思惑を

丁寧に語っていくという体裁を持っているため、

この時彼は、彼女はどのように考えていたのかということが

とても分かりやすく、各人物に感情移入しやすくできています。

 

最初は一人一人、一日一日にスポットを当てて語ってゆき、

エピローグは三者それぞれ用意されています。

そして三者のエピローグ後にラストエピローグが語られるのですが、

とにかく各エピローグどれも救いのない内容になっており、

非常に人を選ぶ作品です。

最後のエピローグで可能性が示唆されるのですが、

その設定が生かされることなく、ふっつりと終わりを告げられます。

このあたりやや未完成感を感じるのですが、

実はグランドエピローグが語られないということにより

読後感の余韻が強く残るようになっており、

最後の文章が終わった後非常に考えさせられるものがあります。

もしかするとこの不完全感、グランドエピローグは

読者が考えてほしいという示唆なのでしょうか。

そういうことを終わった後につらつらと考えてしまうストーリーでした。

 

 

 

システムはシンプルですが特に可も不可もありません。

アドベンチャーに必要なものはきちんと取り揃えられていると思います。

ただセーブがセーブした日付と時間、プレイ中の表題のみとなっており、

どれがどれのセーブデータかわかり辛くなっているのはややマイナスポイントです。

ただし、全体のストーリーは短く、選択肢は皆無で繰り返し読むタイプのものではなく、

前へ進むだけですのであまり不自由は感じません。

そして一〜二日ぐらいの単位で表題が付けられているのですが、

表題ごとにジャンプして読むことができ、

誰のエピソードなのか左にキャラクターアイコンが付けられているので、

全プレイ後好きな日付、好きなキャラクターのエピソードを

自由に読み返すこともできるのがセーブの不自由さを補っているため、

あまりセーブの出来の悪さを感じさせないのに一役買っています。

 

ボイスは一切ありません。

あまり登場人物がおりませんので、その辺は残念です。

音楽もあまり多くなく、とつとつとした静かなピアノ音楽ばかり。

ちょっとシンプルでしょうか。

 

 

 

グラフィックは、愛らしい萌絵系なのですが、

非常に人を選ぶ絵柄。

体のバランスが悪く、頭でっかちで、

手足の短さとアンバランスさを感じる絵です。

そして少女の絵は可愛らしいのですが、

青年より上の人物を描くのが苦手らしく、

素直に言うと成年の年齢の男性の絵に魅力がありません。

ふんわりとした塗は絵柄にあっており、やや幻想的な雰囲気です。

立ち絵は少なく、衣装バリエーションはあるものの立ち絵は一つきり。

表情バリエーションもあまりありません。

この辺やや手抜き感を感じますね。

 

 

CGの枚数は差分抜きで34枚。

差分のある絵は稀で、3枚のみ。

総枚数37枚と、全体的な枚数は少ないのですが、

そもそもストーリーにボリュームがありませんので、

枚数的には十分なものの、もう少し差分が欲しかった。

また差分もちょっと口元が笑っているのみといった

間違い探し的な変化ばかりでしたので、

もっと変化が欲しかったですね。

 

 

 

プレイ時間は6時間。

私は読むのが遅いため、早い方では3〜4時間で読めてしまうと思います。

プレイ後になんとも言えない余韻が残るシナリオでした。

全体的に暗く、重く、セピア色に彩られた、

しかし時折煌きが零れるような、どこまでも透き通った作品です。

テンポ良く、くどくなく、さりとて言葉足らずではなく。

丁寧に綴っていくシナリオ運びは秀逸。

死をこれ程にも散りばめていながら美しく、

切ない切り口でふっつりと終わるエンディングは、非常に人を選びます。

読後に考えさせるものがあるものの、

こういう暗いストーリーが嫌いな人には合いません。

 

また定価は3000円ですが、いろいろ足りなさ感、

ボイスなし、立ち絵バリエーションなし、ボリュームなしという、

三大要素が勧めたい気持ちを阻みます。

色々と難しい作品ですが、こういうのが好きでしたら是非。

繊細で、残酷な、美しいシナリオでした。




HOME    BACK

inserted by FC2 system