いつか、届く、あの空へ。

〜陽の道と緋の昏と〜

 

一言レビュー

羊の皮をかぶった狼

 

グラフィック 9点
シナリオ 8点
ボリューム 8点
快適さ 6点
満足度 8点
総プレイ時間 56時間
総合評価 78点

 

 

芸術一家巽家。

その道の人ならば、知らない人はいないほど有名な一族で、

一族の者はすべて、芸術方面でずば抜けた才能を開花させていた。

その中で一人、全く芸術方面の才能が芽生えないのが、巽策だった。

一人残さず、もれなく芸術方面で脚光を浴びる中の、

たった一人の異分子。

そんなことはない、自分にも何か才能があるはずと

ありとあらゆる方面に手を伸ばし、

だがしかし、何一つとして才能を開花できないことに焦り、

必死に足掻く策に、一族の長たる祖父は告げた。

 

「 お前は好きに生きなさい 」

 

それは、お前は無能であるとの、事実上の宣告に等しかった。

失意に沈む中、昔からの契約に従って空明市に巽の者が誰か一人、

行かなければならないことを聞く。

誰もが嫌がる中、策は自ら推挙し、逃げるように空明市へとやって来た。

自分にあてがわれた屋敷には、策のヨメであると名乗る少女、唯井ふたみがおり、

わけもわからずなし崩し的に一緒に住むことになった。

 

空明市には、昔から不思議なことが起こる。

いくら昼間晴れていたとしても、夜になると必ず厚い雲が空を覆い、

決して星空を見ることはない。

昔から、星空を拝むことは空明市に住む者の悲願。

百年に一度、夜空が晴れるように「照陽菜」という儀式が行われ、

それを実際に行う十二星座、十三人の巫女「天文委員」が選出される。

現在双子座の天文委員のふたみの片割れは空位。

売り言葉に買い言葉に近い感じで男である策を、

もう片方の双子座の天文委員にふたみは指名し、

照陽菜始まって以来の男の天文委員が誕生することになった。

はたして二人の照陽菜は成功するのか…?

 

という、前編こそメルヘンチックでちょっと不思議なファンタジーに見えますが、

それは真っ赤な偽物で、実際は伝奇です。

ふたみの照陽菜が終わった直後に引き布を剥ぐように、

物語と空明市に秘められた謎が紐解かれて行きます。

照陽菜はあくまでも、血生臭い真実を綺麗に覆い隠す

紗のような役割をしているだけであり、

物語の本質は北欧神話と和風テイストをうまくブレンドしつつ、

恐ろしく血生臭く仕上がっています。

要するに、一般に公開されている前半部分の雰囲気を期待していると、

ものすごいギャップを感じることになるわけです。

この辺、かなり人を選ぶストーリーですね。

また、伝奇的になる後半以降から、テキストが非常にくどく、

ねっとりとした趣に様変わりするため、

こういうもって回った言い方、比喩的、暗喩的な表現が嫌いな方には向きません。

とにかくしつこいに尽きる文章は、非常に回りくどく、

特に戦闘ともなるとそれが顕著になっていて、

たとえば空からナイフが降ってきた様を延々とページを消費して表現しており、

あまりのテキストの量の多さ、詩的表現の多用さから、

で、結局今は何が起こったのですか、と首を傾げる事もしばしばです。

しかし、そのこってりとした文章の書き方は独特の魅力と異彩を放っており、

表現力と語彙力は抜群なものを誇ります。

また、設定自体は複雑で入り組んでおり、

難解な表現方法が相乗効果となって

真相が非常にわかり難くなっているため、

足りないパーツは自分なり、考察サイトなりで補完する必要があります。

 

今回愛々々がヒロイン昇格になっているのですが、

9割以上がふたみのシナリオにかぶっており、

ほんの僅かあるオリジナルのテキストも別人が書いているために、

そこだけまったく文体が違ってきてしまっています。

わかりやすいのですが、元の方独特のくどさというがある意味魅力でもあったので、

追加シナリオはどこもかしこもいまひとつ。

戦闘シーンになるとそれが顕著になりますね。

これは流石に可哀相なシナリオでした。

 

そして追加された後日談というのもPS2版での売りのひとつだったわけですが、

これもまた、本編終了後にずるずると続いていく趣があり、

すっきりと終わらない印象があります。

また、起伏にも乏しくて今ひとつの出来です。

もうちょっとメリハリをつけて、

コンパクトながら起承転結を作らなければ退屈になってしまいますね。

本編にくっつけるという形ではなく、

後日談はストーリーから独立させて、

そのヒロインをクリアすればいつでも見られるように、

また、見たくない人は見なくてもいいように、

トップページにアフターストーリーとして独立させたほうが

良かったのではないかな、と思いました。

 

 

システムはやや悪い目〜普通です。

一通りの機能は備わっているのですが、一部使い辛いところがあります。

まず、セーブデータですが、みんな同じアイコンなので、

自分がロードしたいデータを見つけ難くなっています。

また、最新のデータにカーソルが合うということもなく、

常に最初のデータに合うようになっているため、

自分で下まで辿っていかなければいけないのが面倒です。

クイックセーブ&ロードの類はないのですが、

選択肢自体は3〜6と極端に少ないので、全く問題ありません。

テキストの履歴は、今現在表示されているテキストデータのみが表示され、

それよりも前のテキストを見るには

いちいちキーを動かさなければいけません。

そもそも履歴は今現在のテキストより前の文章を見たいために表示するものであり、

そういう意味では画面全体に文章を表示させるタイプのシステムに分があるのに、

どうして現在表示されている文章のみ

初期表示にしたのか首を傾げたくなります。

今現在のテキストより前の文章を画面いっぱいに広げてほしかったですね。

 

 

グラフィックですが、ふんわりとした柔らかく、愛らしい

透明感のある綺麗な絵柄です。

立ち絵とCGの差異も殆どなく、

CGの顔立ちもばらつきがなく、上手に描かれています。

PS2版で新たに付け加えられたCGも同じ原画家氏が担当しており、

全体的に統一感があり、綺麗です。

色の塗りも丁寧に塗られており全体的に高いレベルでまとまっています。

 

CGの枚数は差分抜きで約150枚前後。

体の一部やカットイン、剣のみの絵を加えるともう少しあります。

クリア時間から見ると、まずまず〜やや多い目の枚数です。

絵買いが出来るレベルであり、全体的に問題ないと思います。

 

 

プレイ時間は約56時間。

全ヒロインクリア、全エンディング、全CGを回収しています。

ボリュームは普通〜多い目。

絵は抜群に愛くるしく、絵に合った彩色で枚数も十分です。

前半と後半のギャップがすごい作品ですね。

伝奇であり、後半で様変わりする独特のくどいテキストに

耐性があるのならば良い出来ですが、

こういうねっとりとしたしつこい文体が苦手な方は要注意です。

また、愛々々狙いの人はちょっと考え直したほうがいいでしょう。

そして説明不足なところがかなりあるので、それを補完できる人向けです。

結構癖の強いところが見受けられますが、それが魅力でもあります。

そういう意味でも、人を選ぶ作品ですね。



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