祝姫

 

−祀−

 

一言レビュー

千年の呪姫

 

グラフィック 8点
シナリオ 9点
ボリューム 7点
快適さ 6点
満足度 8点
総プレイ時間 22時間
総合評価 80点

 

 

 

高校二年の春。

親元から離れ、煤払涼は遠戚の春宮家の賃貸に住み、

須々田高校に通うことになった。

煤払家の男子は、一人前になると

親元を離れて独り立ちするという家訓があるからだ。

 

そんな中、教室で一人異彩を放つ少女がいた。

黒神十重。

美しい容姿をしていながら、常に目は虚ろ。

日本人形を片時も離すことはなく、授業は全く聞いていない。

学校も、頻繁に欠席する。

途中の時限から来ることもあるし、

何も言わずに授業中にふらりと出て行ったりするのに、

先生の誰も注意することはない。

まともに話すこともできない彼女は、

教室の中では触れてはいけない禁忌のようだった。

 

誰も積極的に彼女にかかわろうとしないが、

不思議と涼は彼女の存在が気になる。

遠縁の春宮椿子に、彼女に構っては不幸になると忠告されたのに、

どうしても見ないふりが出来なかった涼は、

何時しか彼女達の見る煤の呪いの悪夢に呑みこまれていくことになります。

 

 

という、なかなかにグロいストーリーです。

頻繁に悪夢に悩まされ、その悪夢を

白昼夢という形で見るヒロイン達にかかわるうちに、

呪いにがっちりと抱きしめられ、

否応なくぐいぐいと底なし沼の闇に引きずりこまれていくような、

どこまでも暗く、深く、呪いと汚濁とおぞましさに溢れているストーリーです。

おぞましいのに、先は見たくないのに、

ストーリーへのめり込ませる手法は流石です。

どんどんと深みに呑みこまれる心地がして、

一気に走り出すと目が離せなくなります。

 

何とも言えない嫌悪感の募る悪夢に抗うヒロイン達の中で、

それにかかわる主人公は驚くほどに白い。

真っ白で眩く、浮世離れした思考の持ち主であり、

聖人君子か、悟りを開く人物はかくあるのではなかろうかというほど、

清らかな思考の持ち主で、

これほど清廉潔白な人物はある意味異様ですね。

そういう彼ですからヒロイン達をひるむことなく救えたのでしょうが、

とにかく独特の感性と思考回路を持つ主人公です。

 

基本一本道で、選択肢はほぼないと言ってよいでしょう。

一か所だけ、どの人物を選ぶかというシーンがあるのですが、

どのヒロインのストーリーから見るかの順番だけで、

ストーリーの変化はありません。

最初は強制的にバッドルートへ叩き込まれ、

プレイヤーが混乱するままに何事もなかったかのように

元の日常へ戻ってストーリーがどんどんと進み、

結局全ヒロインのバッドルートを見ることになります。

本来のアドベンチャーならば、

選択肢でどのヒロインのルートに進むかフラグを立てさせ、

全ヒロインのバッドルートを見て初めて

GOOD ENDに進めるといった形をとるのでしょうが、

その手間を潔いまでにばっさりと省いてくれています。

ノベルアドベンチャーというのが正しいジャンルですね。

 

 

 

システムはやや悪め。

オートモード中に何も操作しなければ

光度が落ちるというVITAの欠点が修正されておらず、

オートモード中は一分ごとに画面を触らなければ

光度が落ちるというイベントがあります。

 

フォントはかなり小さく、明朝のような

細いタイプであるのも相まって、非常に見づらい。

セーブ画面はアイコンとどのルートなのか、セーブ日時の表示のみで、

どれがどの時のセーブデータかかなりわかりにくいです。

基本セーブは中断する時以外は必要なく、ただ読み進めるのみなので、

これでもかまわないということなのでしょうが、

それにしてもあんまりなシステムです。

 

シーンジャンプや既読ジャンプも一応あります。

普通のアドベンチャーならば本来は便利なのでしょうが、

なにしろ選択肢がほぼない状態なので、あっても使い道があまりありません。

後は基本的なシステムは揃っていますね。

クイックセーブは一つしかありませんが、

何しろセーブ自体があまり必要ありませんので問題ないです。

エピソードリストでエピソードを途中から見ることが可能です。

フォントはいささか小さいのですが、

どのシーンかCGと概略が記してあるのでわかりやすく、

良いシステムだと思います。

バックログからのロードができるのは便利でした。

 

 

 

グラフィックは可憐で美しい絵柄。

繊細なタッチで、あまり好き嫌いはなさそうですが、

ストーリーがストーリーですので、かなりえぐい絵も多数存在しています。

立ち絵は安定していますね。

主人公の立ち絵も存在し、結構頻繁に出てきます。

ただ、彼を自分の分身と思う人はまずいないでしょうから、

特に問題ないと思います。

塗は丁寧でふんわりしており、綺麗ではあるのですが、

全体的にややグレー〜黒みがかった暗いイラストが多いです。

 

CGの枚数は差分抜きで95枚。

ストーリーがやや短めなのに対し、かなり多い枚数だと思います。

差分もまずまずの枚数で問題ありません。

構図は凝っているのと、そうでないのとの落差があります。

 

 

 

 

プレイ時間は約22時間程度。

時間が表示されないタイプで

正確な時間が分かりませんので約の時間です。

プラチナトロフィーを取得しています。

 

独特の世界観の構築が素晴らしいゲームです。

暗く、深く、どこまでもおぞましい運命に翻弄されるヒロイン達を

救うために主人公が懸命に頑張ります。

ぐいぐいとプレイヤーを引きずり込む勢いのあるストーリーで、

コンパクトながら良く纏まっていると思います。

長々とあの悪夢を見せられるより、

スパッと短めで終わらせてくれたので、

ボリュームはあまりないものの、過不足は感じません。

 

ただ、ハッピーエンドかと問われると首を傾げるものがあるので、

そういうのがあまり好きでなく、

グロイのが苦手な方はプレイはやめておいたほうが良いでしょう。

一気に駆け抜ける、勢いのあるシナリオでした。




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