探偵神宮寺三郎 灰とダイヤモンド

 

一言レビュー

じんわりと心にしみるストーリー

 

グラフィック 8点
シナリオ 9点
ボリューム 5点
快適さ 7点
満足度 8点
総プレイ時間

20時間

総合評価 78点

 

 

シリーズものになっている探偵神宮寺三郎のPSP新作です。

今回はアプリからの移植ではなく、完全新作になっていますね。

基本のストーリーがど真ん中にあって、

途中の選択肢で少々枝分かれするのですが、

結果的には根幹シナリオの「灰とダイヤモンド」に収束されていく、

というタイプになっています。

マルチエンディング、ということで

数パターンのエンディング・ストーリーを期待していたのですが、

バッドエンドに行くか、寄り道をするかしないか、

あるいは二パターンのうちどちらを選択するか、

という二択選択形式になっており、

ちょっとマルチエンディングとは言い辛いところがあるのが残念ですが、

破綻なくストーリーは上手にまとめています。

最初の依頼でどちらを選ぶかによって、

全く違う事件に変化する、というタイプだったら面白かったのですが。

 

しかし、ストーリーは流石の一言です。

近作の中では一番の出来なのではないでしょうか。

オーバーなほどの劇的展開、というのはあまりないのですが、

心にじんわりとしみてゆくような人情味のあるお話は、素直に感動しました。

硬く、冷たく閉じられていた、ばらばらになっていた一つの家族の心が

それぞれに残されたちょっと不思議な、謎かけのような遺産を探す過程で、

ゆっくりとほころびてゆく描き方は見事です。

目を細めてみんなが笑い合える、

語り合えるあのエンディングは大変良かったと思います。

多少脚色しているものの、実際にありえそうなリアリティは

この作品の魅力の一つだと思います。

最初は小さな事件だったのが、調べていくうちに大きな犯罪へかかわっていく、

という話の流れも自然で、とても良く描かれています。

 

ただし、一部尻切れトンボになっているところがあり、

事件に大きくかかわっている人物の謎が

明かされることなく終わってしまっているのはちょっと閉口しました。

一応一話完結式、という形を取っているのですから、

このストーリーの中で広げた謎は、

この作品の中で解決すべきだったと思います。

その変は残念でしたが、他はおおむね良かったですね。

 

 

 

システムは一応総コマンド形式ですが、従来のものより改善されています。

何度も質問させられることはなく(2度質問しないといけないものもあるが)

一通り聞くと次へと進むタイプです。

以前はフラグを立てるために

ぐるぐるとあまり関係のないところを回らされていたのですが、

基本的に次に行かなければいけないところは

すぐにわかるようになっていますし、

テンポよく進められるようになっています。

 

ですがやはり総コマンド形式のわずらわしさ、というのは存在しており、

全部聞かなければいけないにもかかわらず、

いちいち質問を選択しなければならないのが面倒ですね。

また、アドベンチャーですがスキップがついておらず、

基本的に2週して始めて全てのエピソードが読める、というタイプなので、

スキップがついていないのが少々難点でした。

この辺は標準装備をしてほしかったですね。

 

セーブはQUICK STARTという

最新データで開始するシステムがあって

簡単に最後にセーブしたところから続けられるようになっており快適です。

また、SCENE FLOWというツリー型のシーンジャンプ機能があり、

いつでも好きなシーンから始められるのは良いですね。

シーンごとにシーンタイトルがついていて、

簡単なシーン説明がついているのも分かりやすかったです。

これのおかげでいつでも好きなところから再開することが出来ました。

セーブデーターをロードするとき、どのシーンなのか

わかりにくかったのが少々マイナスですが、

おおむねセーブ関連は良く出来ています。

 

あとの基本的なシステムは特に問題ありませんね。

上手にまとめてきていると思います。

 

 

グラフィックですが、神宮寺らしさが現れている渋めのイラストでかなり良いです。

立ち絵、ムービー共に渋いイラストで統一されており、

ムービーがちょっとムービーとはいい辛く、

一枚絵の連続という感じでしたが、上手に描かれています。

味のある大人っぽい落ち着いた色彩とあいまって、

実に良い雰囲気に仕上がっています。

寺田氏が絵を担当しているわけではないのですが、

寺田氏風のテイスティングで、上手に絵を再現していますね。

出来れば寺田氏に担当していただきたいところですが…。

 

 

プレイ時間ははっきりしたことはわかりませんが、約20時間。

全てのエピソードを丁寧に読み、エピソード概読率89%。

バッドエンドは一部のみ回収です。

謎の事件簿はクリアしましたが、

一つだけでしたのでボリュームはありません。

パスワードの類は殆ど見ていません。

PSPとしてはボリュームがかなり少なすぎるのがちょっと気になりますが、

手軽に、手短に読めるもの、というのなら最適でしょうか。

 

従来の作風を大事にし、イメージを出来るだけ損なわないように

丁寧に作った作品だと思います。

実に雰囲気の良い作品であり、

しんみりとした人情味のあるストーリーが好きなのならお勧めですね。

シナリオのクオリティはかなり高いです。

ただし、ボリュームがぜんぜん足らないのは覚悟しなければいけません。



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