雅恋

MIYAKO

 

 

一言レビュー

平安時代「 風 」ファンタジー

 

グラフィック 9点
シナリオ 7点
ボリューム 7点
快適さ 5点
満足度 7点
総プレイ時間 40時間
総合評価 70点

 

 

蒼と赤の光があった。

少女はそれに惹かれるように手を伸ばす。

しかしその手は光をつかむことなく、それは弾け、

やがて男の声に惹かれるように目を覚ました。

月明かりの差し込む淡く蒼い部屋で、自らの右手をつかむ、

長く美しい黒髪の麗人がこちらを覗き込んでいた。

目覚めたばかりの彼女に異常がないのを確認した彼は、

不意に思いっきり少女の手を抓り上げた。

 

彼の名は安倍清明。

生まれたばかりの式神、参号の創造主であり、

宮廷に仕える陰陽師だった。

傲岸不遜で意地が悪く、それでいて思わず見とれてしまう

端麗な主が属する仕事寮で、主人公参号は共に働くことになった。

仕事寮はいわゆる何でも屋。

しかしそれは表向きの仕事であり、夜は趣を変え、

密仕という、アヤカシ達と戦う仕事をしている。

仕事寮で活動していくうちに、

空に浮かぶ月はどんどん不吉な朱色へと染まっていく。

普通の人には見えないその色は、

今起こりつつある天変地異の前触れに過ぎなかった。

 

という、平安時代風ファンタジーです。

何故「風」のファンタジーなのかというと、

この時代ではありえないものが存在したり、言ったりしているからです。

そもそも、攻略キャラクターの一人である源信は僧侶であり、

この時代で僧侶が恋愛を許されている

ということ自体一つをとっても大変異質です。

各キャラクターのビジュアルや服装ひとつとっても突っ込みどころ満載で、

時代考証を全く無視しているところがかなりありますし、

あくまでも平安時代という絢爛豪華な宮廷という舞台、

陰陽師として高名で人気の高い安倍清明を

モチーフに使ったという認識でいないと、

おかしなところがあちらこちらに見受けられます。

あくまでもその時代風の雰囲気を楽しむと思って

プレイしたほうが良いでしょう。

 

さて、実際のストーリーなのですが。

主人公である式神参号のあまりの能力のなさにため息が漏れます。

もちろんまったく能力がないわけではないのですが、

見鬼としてのアヤカシを見る能力と、

ほんの僅かある微弱な能力ぐらいで

取り立てて何かあるということはほぼなく、

ルートによっては終盤に少し力を発揮するといった程度です。

実際は何かあってもほとんどは男性陣の背中に守られてばかり。

一緒に仕事をする意味がないのではないかと思われるぐらいです。

もちろん、これは乙女ゲーですので、

魅力的な男性に守られたいという女性プレイヤーの

希望に沿っているということも考えられますが、

それならば前衛向けの能力ではなく、癒しの力や、結界を張るなどの、

後ろにいて守られて然るべきといった

後衛向けの能力を付けてあげるべきだったと思います。

余りにも役に立っていないのが返って哀れです。

 

ストーリーは大まかに4パターンに分かれており、

マルチエンドではあるのですが、

実際にその時に起こったことは概ね一緒である一本道のストーリー。

終盤でほとんどのキャラクターがバラバラに行動することになるのですが、

一旦攻略キャラクタールートに入ってしまうと

他キャラクターがその時何をしていたのか

といったことはほとんど語られることがなく、

各ルートに進んで初めて彼らが何をしていたのかということが分かります。

ファンタジックな要素や、彼らの能力を盛り込んでの戦闘は派手で、

京で起こりつつある驚異的な出来事を盛り込んで、

平安時代の宮廷文化を取り入れた時代設定は

表題のように雅やかであり、華やかな雰囲気があります。

ただ、生まれて十数日で恋に落ちるというのはあまりにも早く感じられ、

一日終わるごとに○日目と表示するのは

やめておいたほうが良かったのではないかと。

 

全体的なことを見ると、平安時代風というイメージをモチーフにした、

雰囲気の良い作品であり、この時代設定を上手に用いています。

各キャラクターも特色を前面に押し出した魅力があり、

キャラクターや時代設定、雰囲気が気に入ったというのならば

特に問題はないかと思います。

ただ、終盤がいささかくど過ぎるシナリオがあるのが

少し気にかかるでしょうか。

 

 

 

システムは一見いろいろと設定できるように見えますが、

アドベンチャーとしては非常に不出来で使いづらいです。

オートセーブはなく、簡易セーブは一つきり。

しかも簡易セーブはどこでセーブしたのか全く表示されないため、

とても使いづらいシステムです。

また、アドベンチャーにおいて必須であり、

出来て当たり前なシステムができないことがあり、

それがとても不自由です。

 

まず、スキップとオートモードがシングルアクションでできません。

スキップはシステム画面を呼び出して、

既読早送を選択しないといけない上に、大変遅く、

CGや背景、立絵、場面効果でまめまめしく一旦停止します。

ただし、これはあらすじモードという、

既読文章を短くまとめてくれる

システムを利用することで少しは相殺されます。

物語回想という、既読の文章をキャラクターごとで見られる

システムは非常に良いと思います。

 

一番ひどいのがオートモードで、

システム画面 → 設定 → 文書設定まで進み、

文字自動表示を「 有効 」にセットしないとオートモードになりません。

その上ゲーム環境設定を変更すると設定のセーブをするかどうか聞かれ、

キャンセルするのにも、セーブするのにも煩わしく、

オートモードの解除は上記手順をもう一度ふみ、

文字自動表示を「 無効 」に再設定しないと解除になりません。

もちろんその後にきっちりシステムのセーブをするのかどうか

聞かれるという煩わしさも付いてきます。

 

そしてオートモードのページ送りのスピード調整がありません。

このシステムがないアドベンチャーは初めて見ました。

目を疑って説明書を何度も見直したぐらいです。

勝手に設定されているオートモードのページ送りスピードはとても遅く、

他アドベンチャーでは当たり前に出来ていたシステムが

使い勝手が悪かったり、そもそもなかったりするのは大減点ポイントです。

当たり前に使うシステムだけあって

このあまりの出来の悪さには泣かされました。

 

セーブもプレイ日時と表題だけと分かりにくく、

メモリインストールがないのはしょうがないとしても、音声だけでなく、

場面変更や立絵変更でまめまめしく入るシャーク音が煩わしい。

あちらもこちらも不出来なシステムで、

プレイ中不快感に苛まれました。

 

 

 

グラフィックは絢爛豪華な趣のある、非常に麗しい絵柄。

構図ひとつとっても華があり、男性陣の纏う衣装も装飾が美しく、

布地の織柄や光の演出も艶やかで、CG一枚一枚を煌びやかに彩っています。

女性が好みそうな繊細で美麗な絵柄ですね。

目元の光の入れ方、目の描き方が少し特徴的ですが、

おおむね万人向けだと思います。

色の塗りも丁寧で美しく、鮮やかで綺麗です。

背景の美しさや空のグラデーションの繊細さは素晴らしいです。

立ち絵のポーズバリエーションも多く、表情もこまめに変わります。

CGと立ち絵に差はほぼなく、皆魅力的。

この辺は特に問題ないと思われます。

 

CGの枚数は差分抜きで84枚。

基本的な枚数は、プレイ時間が一般的なボリュームですので、少なく感じます。

差分は一つのCGで2〜4枚程度とやや少なめで、

全体の枚数の少なさがもったいない。

このボリュームでしたら差分抜きで100枚ぐらいは欲しかったかと。

一枚一枚は非常に出来が良く、美しい塗をしているので

枚数の少なさは非常に残念です。

 

 

 

プレイ時間は40時間程度。

プレイ時間が表示されないために実際のプレイ時間はわかりません。

全キャラクターエンディングを制覇していますが、

回想は全部収集していません。

 

ややスロースターターなものの、

個別ルートに入ると俄然面白くなります。

CGも華があって美しく、平安時代風の時代設定を華麗に彩っています。

平安時代風のファンタジーとして、

いまだに人気の高い安倍清明をメインに据えた

ストーリーはなかなか良かったのですが、

主人公のあまりの役立たずっぷりにため息が漏れ、

そしてシステムの非常識な悪さが目に付きます。

他社のアドベンチャーでは当たり前に出来ていたことや、

シングルアクションでできて当然なことが

できないのがこれほど不自由なのかと、再認識させられました。

システムの悪さが我慢でき、各キャラクターを魅力的に感じるのならば

プレイしても損はないでしょう。




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