おおかみかくし

 

 

一言レビュー

調理の仕方が惜しい

 

グラフィック 7点
シナリオ 6点
ボリューム 8点
快適さ 9点
満足度 6点
総プレイ時間 39時間
総合評価 69点

 

 

昭和58年夏。

九澄博士は小説家の父、九澄正明が引き当てた、

まだ真新しい町営の5階建ての団地に引っ越してきた。

都心からはずいぶん離れた山間にある嫦娥町は、

八朔を特産とするひっそりとした村だったが、

最近になって都市化が進み、

新たなニュータウンとして切り開かれた街だった。

 

博士は街に唯一ある高校に転入したものの、

取り立てて目立った容姿や性格をしていないのにもかかわらず、

妙にクラスの者たちほぼ全員にチヤホヤされることに内心首を傾げていた。

お隣の可愛い同級生の女の子、

摘花五十鈴に猛烈なアタックをかけられ、

人生初のモテ期に戸惑いを受けつつも、

クラスメイト達に非常に好意的に受け入れられて楽しい日々を送っていた。

 

その生活の中で気になる事が二つ。

一つ目は、クラスで孤立しているかのような少女、櫛名田眠。

苛められているのかというとそうではなく、どちらかというと畏怖され、

彼女自身が望んで孤高を保っているかのような存在だった。

クラス中が博士の歓心を買おうとする中、

ただ一人冷ややかな目で博士のことを見、

迷惑だときっぱり切り捨てる少女。

 

二つ目は、五十鈴と眠に告げられた言葉。

「旧市街には近づくな」

 

異常に夜が早い街、嫦娥町に秘められた、

ある特異な体質の住人達と八朔の謎に、

主人公九澄博士は否応もなく巻き込まれていくことになります。

 

 

 

物語自体は深く細やかな設定の土台を元に作られており、

どちらかというと魅力的な部類に入るとは思うものの、

伏線の張り方とその回収の仕方が下手です。

伏線が、殆ど隠していないというか、

キャラクター達の行動や漏れ聞こえる言動で

プレイヤーにほぼ伏線がばれてしまっており、

その謎が解き明かされても、予想通り過ぎて

驚きというものがほとんどありません。

 

そして最後近くで一気に伏線の回答がばらまかれており、

少しずつ見せる気は皆無というか、

途中で伏線の回収が面倒になって

一気にぶちまけたといった具合になっており、

この辺もうちょっと隠すなり、巧みに回収するなりすれば

ぐっと魅力的になったであろうに、実に惜しい作品です。

 

そしてグランドエンディングともいうべき回答編がどうにも出来が悪い。

回答編というぐらいだろうから伏線をもれなく回収しつつ、

ベストな状態にたどり着くのかというとそうではなく、

実際この嫦娥町の問題はほぼ丸投げして終わるという、

何も解決していないエンディングに唖然としました。

嫦娥町の問題解決に向けての布石は打ってあるのに、

それを全く役立てていない様には驚くものがありました。

終盤には息切れしてしまったのでしょうか。

ここをもうちょっと掘り下げ、丁寧に膨らませば

誰もが納得のいくエンディングが描けたであろうに、

設定が壮大過ぎて呑まれてしまい、上手に締めくくられていない

といった印象のストーリーです。

設定はいいものを持っているのに、

それの役立て方、展開の仕方、回収方法が

非常に下手といった印象を受けました。

 

そして注意しなければならない点が、ボーイズラブ系の展開が

どのルートでも大抵あるということです。

とても頻繁に男性に襲われたり、

それを匂わせる言動をされたりしているため、

ある程度そのタイプの耐性が必要です。

 

 

 

システムはインストール有りでローディングもほぼなく、とても快適です。

細やかな設定もでき、アドベンチャーに必須のシステムはもちろんのこと、

有ったらいいなと思うものはほぼ網羅されています。

そして特筆すべきが、テキストウインドウのデザインです。

フルスクリーンという、画面全体でのテキスト表示と、

ウインドウという、下部に一行〜三行で表示される、

従来通りのタイプという二通りに切り替えられるというシステムが良かった。

テキストウインドウがプレイヤー側で任意に

切り換えられるシステムは私にとってとても新鮮でした。

 

そしてアクトペディアという、

ストーリーが進むごとにテキストが増えていく、

人物紹介やある特異な単語の解説、

エンディング到達が一目でわかるシステムも良かったのですが、

唯一の難点が見にくいということ。

新たに追加された物はNEW表示があるものの、

アイコンとアイコンに開きがあり、

新たなものを探して読むのが大変です。

LやRキーでまだ読んでいないものにカーソルを移してくれる

システムがあれば良かったと思います。

気になるのはそのぐらいでしょうか。

 

 

 

グラフィックは非常に愛らしい絵柄。

ふんわりとした絵柄で、ガラス細工のように華奢で繊細ながらも

お人形のような可愛らしさがあります。

怪奇的なストーリーとはいささか合わないような気もしますが、

幻想的で美しいCGはとても良く描けていると思います。

色の塗りもまずまずで、絵にあった

ふわりとして儚さを感じさせる塗で綺麗です。

立ち絵は男性以外安定しており、非常に魅力的。

男性はやや違和感があるものがあります。

そして、CGにやや顔のバラつきがあるのが気になるところ。

 

CGの枚数は差分抜きで81枚。

40時間近くという長丁場の作品なのですが、かなり少ない目です。

最低限100枚、できれば120枚ほど欲しかった。

また、差分のあるCG自体あまりなく、

あってもほとんどが2枚となっているのが残念です。

 

ギャラリーはキャラクターごとに分かれるといった事もなく、

バラバラに連続配置されるために目的のCGを探すのが大変ですね。

恋愛アドベンチャーというわけではないのでそうしたのでしょうが、

もう少し見やすく仕分けしてほしかった。

 

 

 

プレイ時間は39時間。

総プレイ時間が表示されるタイプなため、正確です。

エンディング、CG、既読率が100%で、フルコンプリートしています。

 

設定自身、良いものを持っているのにその魅せ方、

伏線の回収の仕方がとても残念な作品です。

面白くないわけではありません。

とても閉塞感のある運命にどのように抗い、

どのように解決していくのかといった事は気になりましたが、

それが全て解決すべきであろう回答編が期待外れで、

どうにも締まらない最期を迎えてしまいます。

 

そして主人公がやたらと男に襲われているため、

そういった展開にもある程度耐性が必要と、

一体どこ向けに作ったのだろうかといささか首を傾げる作品でした。

上手に作れば大化けしたであろうに、

非常にもったいないことをしたと思います。




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