桜華

〜心輝かせる桜〜

 

一言レビュー

絆を結ぶ心温まるストーリーだが、文章力が低い

 

グラフィック 7点
シナリオ 8点
ボリューム 9点
快適さ 5点
満足度 8点
総プレイ時間 77時間
総合評価 75点

 

 

強い思いを奇跡の力へと変える力持つ桜、「霊木」。

その霊木に守られた街には、古くからその桜を守る「守人」、

その桜の力を受けて、不思議な力を行使する「共神者」と呼ばれる者、

そして年経ることにより物が魂を持った、物神達が住む、

ちょっと変わった街。

 

不思議な力はただ行使できるわけではなく、

みな総じて、使った力に比例する『代償』を受ける。

 

小さな頃、一緒に車に乗っていた両親を交通事故で亡くし、

残された義妹がその事故で瀕死の重傷を負った時。

主人公、古坂優夜は義妹の命を助けるため、

霊木の力により治癒の力「癒慰」を授かった。

 

「癒慰」の力の代償は…治した傷に比例する、不幸を呼び寄せること。

力の代償で、爆発した車から義妹を守るために求めた力は、

街に古くから伝わる、人を憎悪する最強の刀の物神「禍風」だった。

 

その膨大な力故に恐れられ、人の身に封じられてきた物神「禍風」。

少しでも禍風を封じる力が弱まれば、

己の魂を喰らって禍風が暴走し、守人を、町を破壊し尽くす。

薄氷の上の生を生きることになった主人公を取り巻く、

女性との間に絆を結んでゆくという、

心温まる家族愛をモチーフにしたストーリーです。

 

 

ヒロインは7人+2人。

プラスをつけたのは、2人のヒロインは

違う主人公で攻略するからです

 

物語は大きく三編に分かれており、

「桜華編」「闇使い編」、そしてPS2版で追加された「凍邪編」になります。

桜華編は心の絆を追ったストーリー、

闇使い編は主人公の暗い設定を十二分に生かしたストーリー、

凍邪編は永遠の命を持つ物神が、短命の人間と共に生きる

悲しみを丁寧に綴ったストーリーになっています。

 

全編共に、家族とは? 絆とは? 人を愛すると言うことは?

という、人の思いが細やかに描かれた、

心温まるストーリーになっています。

ただ、強引にハッピーエンドに持っていっているところがあり、

展開にちょっと強引な、ご都合主義なところがありますね。

 

また、ストーリーによってはその展開にするために、

キャラクター達が引きずられているところがあります。

要するに、キャラクター達の設定が殺されている部分があるのです。

「それは○○に聞けばいいだけでは?」とか。

「そこは○×を使えばいいのでは?」とか

「××はどうなったのか?」など、

首を傾げる場面がいくつもありました。

そのあたり、ちょっと完成度が低いかな、とも思います。

 

もともとの作品が18禁なのですが、

それをかなり意識してしまう作品になっています。

その手のシーンはキスや抱きしめる等で殆ど誤魔化されているのですが、

その直後のテキストで主人公達が必ず、

「そういうこと」を「やった」とあっさり自白してくれていますので…。

いつの間に!とかなり突っ込みを入れてしまいましたね。

 

また、18禁的展開や設定をどうしてもはずせない

キャラクターもおりますので、

直接のシーンはカットされていますが、

18禁的展開になってしまうのも仕方ないキャラクターがいます。

そういうのがお嫌いな方はちょっと向かないかもしれません。

まあ、ヒロインの殆どと主人公の年が二十代以降という

要因もあるとは思うのですが。

 

 

さて、最も私を唖然とさせたのは、

あまりにも多い誤字・脱字・乱文です。

ストーリーが良いと評判のアドベンチャーで、

ここまで酷い文章を読まされたのは初めてです。

ハッキリ言って助詞の使い方が小学生レベル。

特に格助詞(が・の・に・を)と呼ばれるものが酷いですね。

 

例を挙げると、

「少しだけ表情が緩ませて」

「俺の守る役目の夏輝には」

「まだ瞳に涙がたたえたまま」

「夢源郷の公園の向かって走る」

等々。

例を挙げたのはごく一部です。

シナリオ中にこの手の文章がかなり点在しています。

 

また、日本語の使い方が致命的に間違っている文章として、

「こんな朝早くにお参りなんて、よっぽど信心深いか、暇だなぁ……。」

というものがありました。

ちゃんと比較あるいは類義語になっていません。

ここは、

「よっぽど信心深い人か、暇な人なのかなぁ」とするのが正しいです。

 

後いくつか例を挙げると、

「あんまり会話しづらい雰囲気の人だし、できればやり過ごしたかった」

「○×を抱えて博物館まで抱えてきたんだ」

等、実にプロとしてとても恥ずかしいと思いますし、

こんな文章でプロですと名乗るのはどうかとも思います。

この手の破壊的文章が作品をぶち壊しにし、

かなりレベルを下げていますね。

大事なシーンでこういう文章が出てくると、

かなり萎えるものがあったのが非常に残念です。

 

 

ボリュームは凄まじいです。

三篇ともヒロインルートに突入するまでに

共通シナリオというものがあるのですが、

桜華編は8時間、闇使い編は14時間、凍邪編は4時間あります。

そして各ヒロインルートが4時間〜6時間あり、

私が今までやってきたアドベンチャーでは屈指のボリュームですね。

 

しかも凄いのが、ヒロインルートに突入すると、

誰一人として展開やストーリーが被っていない所です。

立て続けにある1つ〜3つの選択肢で

一気にヒロインルートに突入するのですが、

ヒロインルートに入った途端、全員が全てオリジナルの

展開になるのが凄いです。

大体アドベンチャーはどのキャラクターにも同じイベントが

あるものなのですが、そういう類はありません。

そのテキストの膨大さには脱帽させられました。

 

ただし、パターン化はあります。

 

ヒロインのことが気になりだして

好きになるが破局を向かえ

絆を深め合って心を通わせ

強い絆を築いた二人の前に、二人では到底乗り越えられない壁が立ちふさがる

ハッピーエンド

 

というのが基本パターンですね。

闇使い編では「好きになるが破局を向かえ」

がなくなり、「絆を深め合う」展開が

ヒロインによって幅が広がるぐらいですね。

 

変わってPS2での新要素、凍邪編はかなりレベルが高いです。

山あり谷ありは同じですが、パターン化されておらず、

二人のヒロインどちらも、

物神が短命の人間に寄り添って生きることの悲しみを

モチーフにされているにもかかわらず、

ここまで展開に差を出せたのはさすがともいえます。

凍邪編だけ分離している趣はありますが、

単なる付け足しのお話とは言わせないものがあります。

ハッキリいって一番素晴らしかったのはこの凍邪編ですね。

これをやってかなり評価が変わりました。

 

全編の評価をすると、

桜華編−良い

闇使い編−悪い

凍邪編−とても良い

ですね。

 

闇使い編は主人公の全ての基本設定を上手に使った展開になっており、

基本シナリオは実に素晴らしいのですが、

煩わしいほど長く、繰り返しの多い文章が欠点ですね。

そして致命的なのがヒロインルートで、

個別のルートのレベルがかなり低いです。

展開が簡単に読めるものがほとんどで、くどく、

かなり強引なのがその要因でしょうか。

ストーリーを進めるのが一番苦痛でした。

 

 

システムはアドベンチャー系に必要なものは基本的に揃っています。

概読スキップ機能もあるのですが、ハッキリ言って使いません。

ヒロインの選択に関わるところまで

一気にショートカットして飛ぶことが可能ですし、

選択肢自身もどれを選べばどのヒロインのルートにいけるかが

実にわかりやすくなっています。

基本シナリオを除けば、ヒロイン毎に被っているストーリーもないので、

必要ありませんでした。

その点を見れば、かなりゲーム性は低いと思います。

ただ、私はアドベンチャーにゲーム性を

求めるのはどうかと思っている人なので、

これはこれでいいかな、と思います。

 

他のシステムですが、かなり使いづらいものがあります。

バックログは一行毎にしか表示されないタイプで、

しかも遡れる行数が実に少なく、48行ぐらいまでしか表示してくれません。

音声再生機能もありませんでした。

 

そして、バグがあります。

効果音が鳴って、画面が切り替わる時、

テキストが全く表示されなくなる事があります。

どのボタンを押しても無効で、

唯一システム画面のボタンのみが有効になっています。

一旦システムの画面に切り替えて、

キャンセルして元に戻るとテキストが表示され、

画面が切り替わっているのですが、頻繁にあるので結構面倒でした。

 

CG閲覧モードですが、これもちょっと使いづらいです。

カーソルがどこに跳ぶのかがわからないですし、

カーソルがどこにあるのかもわかりにくく、

見たいCGを表示させるのに時間がかかります。

また、2ページ目以降があるのもわかりにくかったですね。

そして、表示に問題があるのが2枚ほどあります。

縦長のCGが一枚あるのですが、

それの下半身が表示されません。

それまではいくらか許せるのですが、

二つとなりのCGがその縦長のCGの下半身が表示され、

正しいCGにスライドされるのです。明らかな設定ミスです。

見た時びっくりしました。

 

後細かいところをあげると、

エンディングロールのヒロインの名前が間違っています。

咲夜さんの名前が二つあります。(本当は月夜さん)

こういうちょっとしたミスが多い作品ですね。

添削、校正の類をしていないのがばればれです。

明らかなチェックミスです。

 

グラフィックですが、CG枚数は差分抜きで130枚ほどと、

まあまあな枚数があると思います。

ただ、キャラクターごとに枚数が物凄く差があるのがいささか問題ですね。

 

キャラクターイラストですが、二人の絵師さんが

担当しており、かなりタイプに差があります。

一人は綺麗&可愛い系で万人受けする絵を描かれる方ですが、

もう一方の闇使い編のヒロイン達を描かれている方の絵が、かなり癖が強く、

人によっては受け付けないものがありますね。

綺麗かと言われれば首を傾げる類の絵ですので…。

 

特に闇使い編のメインヒロインであり、

桜華編、闇使い編両編で最も重要な位置付けにある女性がちょっと…。

あのワカメのような独特かつ前衛的な髪の色の塗り方は、

盛大に文句を言いたいところですね。

この方の絵は身体の描き方ももっさりとした感じで、

いわゆるギャルゲーには向かない絵だったと思います。

 

また、CGによっては別人かと思う人物がおり、

絵によってはレベルにかなり差ができているのも気になります。

ストレートに言うと、凄く不細工に描かれているCGがあるのですね。

ヒロインもそうなのですが、特に顕著なのが主人公です。

絵によっては別人。

 

どうも、A氏のヒロインが出ているCGはA氏が、

B氏のヒロインが出ているCGはB氏が

主人公を描いているようなのですが、

タイプが明らかに違うので、全くの別人です。

体格、髪形、表情の作り方までもが明らかに違って、

かなりの違和感を感じました。

あまり描かれないとはいえ、主人公はどちらの方が書くか

統一すべきだったと思います。

 

また、銀狐のCGがあるのですが…ハッキリ言って狐に見えません。

よく言って、不細工な猫。

しかも体の描き方が明らかに変。

もうちょっと気を使って欲しかったです。

 

そして、場面にそぐわないCGがあったのもNG。

「俺の右肩に頭を乗せ」とか「右腕で抱き寄せ」

と描いてあるのに、ヒロインがいるのは左側とか、

お風呂に入っているはずなのに、表示されるのはばっちり服を着たCGとか、

「おしゃれしてきたのよ」とか「白いスカートが」とか

書かれているのに普段着かつスカートはワイン色等。

 

背景グラフィックはとても綺麗です。

特に自然物に対する光の使い方が実にうまいです。

夕暮れの海、星空、月の浮かぶ空、日を浴びてきらきらと光る海等、

壁紙にしても遜色のないレベルだと思います。

とても拘って描かれていますね。

 

立ち絵ですが、表情がころころと変わってなかなか面白いですね。

バリエーションも豊富で、普通はないような表情もあるのが

いい味を出しています。

通常バージョンとアップバージョンがあるのですが、

その二つのバージョンで、立ち絵に違和感のある人物が

約半数いるのがちょっと残念です。

通常の分とアップバージョンは別の方が描かれたのでしょうか?

 

 

プレイ時間は、全ヒロインをフルコンプリートしての時間です。

音声を全部聞いているので私のプレイ時間は長く、77時間かかっていますが、

音声を聞かなくても60時間ぐらいはかかると思います。

全員を攻略しないといけないタイプではありませんが、

ヒロイン毎に独自のストーリーが展開されているので、

全員をプレイされることをお勧めします。

全員はちょっと…と思う方でも、

三篇で一人ずつ攻略されると、かなり違った感想をもたれると思います。

共通シナリオが三篇ともがらりと変わっていますので。

 

闇使い編のヒロイン達のストーリーとCGのレベルの格差、

プロとは思えない稚拙な文章とシステムが

かなり足を引っ張っていますが、なかなかの良作でした。

色々問題も指摘していますが、結構満足したのも確かです。




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