最果てのイマ

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一言レビュー

考察必須の黄昏の楽園

 

グラフィック 7点
シナリオ 9点
ボリューム 8点
快適さ 10点
満足度 9点
総プレイ時間 43時間
総合評価 87点

 

 

『聖域』

鍵のかかっていない廃工場に、近くに捨てられていた家具、

それぞれの私物や食料を持ち込んで作られた場所を、

彼ら7人はそう呼んでいた。

世間から畏怖され、いじめられ、家庭の事情で遠巻きに見られ、

あるいは己の意思で孤立した、

友人のいない異色の者たち。

そんな人物を一人一人集めたのは、貴宮忍だった。

ぎこちなく友達ごっこを続けるうちに、

それぞれ、それはかけがえのないものへと変わる。

忍は家でも安息がなく、くつろげる場所は工場だけ。

思い思いに工場へ立ち寄り、仲間と過ごした日々は、珠玉の思い出。

 

忍は特殊な施設育ち。

そこはあることに特化した者たちが教育されている、施設だった。

忍はとある事情から11年もの間、施設の外へ出されていた。

壊れつつある黄昏の世界で、仲間が一人、二人と脱落していく。

消えていく者たち。

終わりの迫る世界の中で、手のひらから零れ落ちようとする者たちを今、

忍は必死にすくい上げるために奔走する。

 

千々に散らばる記憶の欠片、

どうか、正しく配列されますように…。

 

 

という、仲間たちとの触れ合いを描いた

ハートフルなストーリーかと思えば、

真実は全く趣の違ったストーリーです。

時系列はバラバラにストーリーがばらまかれて続いていきます。

それは物語終盤に起こるある出来事からきているのですが…、

これ以上はネタバレに抵触してしまいますので、

ストーリーを語るにおいて非常に困る作品です。

 

上記ストーリー紹介においてもかなりギリギリ、

ゲームをプレイした者にはわかるネタバレもちらほら見えてしまうので、

本当にこれでいいのか悩んだぐらいです。

実際の説明書に記載されているストーリー紹介でも、

かなりぼかし過ぎて実際はどういうストーリーなのか

よく分からないようになっています。

 

沢山のエピソードがそれぞれいつごろの出来事なのか

というのを理解するかが最重要となってくるのですが、

何しろ最初はその辺りは全く触れないうちに展開されていくため、

いきなり時間が遡ったり進んだりするのにとても面喰います。

最初は時系列がバラバラということも分かりにくくなっているので、

プレイヤーは続きの話として錯覚させられます。

これが非常にいやらしいミスリードですね。

 

エピソードたちが何時か分からないうちに忍が施設へ戻る後半で、

何故そのようになっているのかという伏線が語られるのですが、

とにかく終盤までどうして時系列がバラバラになっているのかが語られません。

終盤になって一気に伏線の回収のポイントとなるキーワードが語られるため、

一エンド後ではただ語られる言葉の羅列を呆然と見つめるだけで、

実際にどういうことなのか理解するのは

それぞれのルートをもう一度プレイする、2ルート目のときのみです。

 

施設へ戻るルートへ至るためにはヒロインルートを

それぞれ2週する必要があるのですが、

それも伏線に関係してきます。

私が語っているのはそのさらに2週目、

要するにヒロインルートを3〜4週することを2ルート目としています。

ここは非常に上手いと思います。

普通はプレイを2回しない私ですら、

スキップを駆使し、考察サイトを参照させてもらいながら

2ルート目をプレイしたぐらいですから、

一エンドではまず真実に近づくことすら難しいでしょう。

全てを知ったうえでようやくそれぞれのエピソードが

いつなのか知るためにプレイするのが2ルート目となります。

 

一エンドを終えて、考察サイトを見てなるほどとうなり、

実際にもう一回プレイしてようやく理解する、

とにかく非常に難しいストーリー。

ですが、そこがこのゲームの魅力であるとそう考えます。

 

 

 

システムは基本を押さえ、全方向に配慮した万能タイプ。

セーブ・ロードが非常に優秀なシステムです。

クイックセーブクイックロードも完備。

もちろん文章の履歴からの再ロードも可能。

ゲーム終了後はCHAPTERから各エピソードを読むことも可能、

ショートカットで各ルートを最初から読むことも可能、

ストーリー途中のキーワードの解説ももちろん読めると、

もう一度プレイすることを念頭に置いた隙のないシステムです。

ここまで読み返すことにおいて完璧なアドベンチャーは

非常に珍しいと思います。

至れり尽くせりですね。

 

唯一気になるのは総プレイ時間です。

スリープ時、プレイ時間は止まるようですが、

総プレイ時間は微妙に進んでいるようです。

ですので、最終プレイ時には10時間近く、

実際のプレイ時間との乖離がありました。

気になるのはここぐらいでしょうか。

 

メモリインストールは有りです。

読み込みに関してはとても快適。

総じてシステムは完璧に近いかと思われます。

 

 

グラフィックはシンプルながら、静謐な美しさを感じるタイプ。

萌絵的なやけに可愛らしい絵柄ではありません。

目を閉じた時の何とも言えないはんなりとした美しさが良いですね。

ですが、やや体のバランスが悪いCGや、

顔の絵崩れしているCGが多分に見られるのがマイナスポイントです。

不安定さの残る作画ですが、色の塗は総じて綺麗です。

繊細な色の塗方で、夕暮れや青空が非常に美しい。

立ち絵は安定していますが、斎の立ち絵に

一部絵崩れがあるのが気になるでしょうか。

 

 

CGの枚数は差分抜きで93枚。

差分込みで242枚となっていますが、

ムービー5枚込ですので、実際は差分込みで237枚かと思われます。

albumでCGを表示すると、

各CGのメインとなっているキャラクターの声優さんが

キャラクターになってCGを解説してくれるのが面白いですね。

差分はまずまずの枚数ですが、差分抜きの枚数が

プレイ時間が長めの割にはちょっと枚数が少ない目かと思われます。

もう少し欲しかったところ。

 

 

 

プレイ時間は43時間。

1エンド後、考察サイトを見ながら気になるシーンを再読しましたので、

実際のファーストプレイは39時間、

スキップを利用して総プレイ時間は43時間程度です。

 

黄昏の楽園というのが雰囲気的にぴったりだと思います。

ただし、話の内容は難しく、

時系列にエピソードを並び替え、プレイヤー自身が起こった出来事が

何だったのかという理解が必須になっており、

考察サイトを頼らないと物語の全貌を知るのは難しいです。

プレイ後にそうだったのかとようやくわかる内容は、ちょっと人を選びそうです。

ですがこういう考察タイプが好きという方は

絶妙な配置や伏線にうならずにはいられないでしょう。

プレイ後もストーリーをつらつらと考えてしまう、

非常に興味深いストーリーでした。




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