水月

〜迷心〜

 

一言レビュー

夢かうつつか幻か

 

グラフィック 8点
シナリオ 8点
ボリューム 7点
快適さ 9点
満足度 8点
総プレイ時間 30時間
総合評価 82点

 

 

記憶を失って病院で目覚めたある夏の日。

主人公、瀬能透矢はその日以降からある夢に苦しめられ続けていた。

美しい長い黒髪に赤い瞳の儚げな少女。

彼女を弓で射抜くという夢は、どれほど足掻こうと

彼女を射抜かない限り目覚めることはかなわない。

その夢からくる強烈な恐怖心からか、

部活の弓道で弓を射ることが出来なくなっていた。

 

そのうち戻るだろうと周りから言われていた記憶も戻ることはなく、

メイドの琴乃宮雪、幼馴染の宮代花梨と大和庄一、

友人の新庄和泉と学校生活を送る中、

星降るような七夕の夜、一人の少女に出会った。

彼女の名前は牧野那波。

盲目だがそれを思わせない自然な身のこなし、

そして不思議な雰囲気を漂わせるどこか神秘的な儚い少女。

彼女は、夢で射抜き続ける少女そのものだった。

 

 

という、民俗学、日本神話、歴史に消された山の民をモチーフにしたストーリーです。

主人公が毎夜見る不思議な夢を中心に、

夢かうつつか、またはその狭間かといった移ろいゆく幻にたゆたい、

ゆらゆらと揺れながらもストーリーは展開していきます。

ヒロインは7人なのですが、琴乃宮雪、牧野那波以外は

物語の根幹から離れたストーリーであり、

物語の中心となるモチーフや謎に外側から触れつつも、

その本質には殆ど踏み込まない、やや不思議テイストながらも

一般の恋愛アドベンチャーとなっています。

 

その真逆なのが二人のヒロインであり、

物語の重要なキーをがっちりとつかみつつも、

ストレートにはその謎を明かさず、

プレイヤーに解は任せるといったややぼかした終わり方をしており、

その辺はちょっと人を選ぶと思います。

 

ですがその独特の世界観は儚く、美しく、

それでいて人の情愛や悲哀、嫉妬を織り込んで醜く、

それらのものが何とも言いがたい魅力を放って

プレイヤーを物語の中にからめ取っていくものがあります。

物語を補完すること、考察することができるのならば

かなりはまれるものがあるのではないでしょうか。

 

そしてファンディスクであるみずかべが収録されているのですが、

こちらはごく普通の恋愛アドベンチャーとなっております。

いわゆるファンディスクでは各ヒロインエンド後の

その後となるのが一般的なのですが、

それとは違って那波エンド後の世界になっています。

出てくる女性が全員主人公を好きな中、

それを知りながらも透矢自身も全員に好意を抱いており、

今現在のハーレム状態をそのまま続けていけないかと

優柔不断に悩むあたりはやや嫌悪を覚える所ですね。

 

全員が好意を抱く中で那波が強く自己主張し出すにしたがって

不協和音が生じ、今までの関係が崩れていくのを

どうにか元のような関係に戻せないかと悩むことになるのですが、

その八方美人さにはやや呆れてしまうところがありました。

また、エンディングは大きく分けて3パターンしか用意されておらず、

まったく用意されていないヒロインが少々哀れです。

エンディングのないヒロインがお気に入りの方は

ちょっと寂しいファンディスクかもしれません。

 

 

 

システムはいわゆるKIDシステム。

ごく一部を除いて完成されている全方向に隙のないシステムですね。

現在でもここまで完成されている、

かゆいところに手の届くシステムは珍しいと思います。

クイックセーブ、クイックロード、ショートカットからのスタートも完備。

システムも細かな部分まで搭載されており、

アドベンチャーに必須なものはもちろんのこと、

あればいいなと思うシステムはほぼもれなく搭載されています。

 

ただ、問題がないわけではありません。

セーブ・ロード画面の妙なレスポンスの悪さが気にかかります。

セーブ時の画面やテキストを読み込む必要性から生じているのでしょうが、

カーソルを上下するたびに2テンポぐらいのラグがあるのが非常に気になります。

そしてオートモード時、どのキーを触っても

オートモードが解除されてしまうのが地味につらいですね。

他システムをいじるとまたオートモードのキーを押さねばならず、

またそのキーも○ボタン長押しなのが少々面倒でした。

気になるのはそのぐらいでしょうか。

今から見ても、かなり出来の良いシステムだと思います。

 

 

 

グラフィックはふんわりとした可愛らしいながらも

神秘的な美しさも垣間見せる絵柄。

萌絵のカテゴリーの中でも比較的万人向けの絵ですね。

不思議な世界観にあっていると思います。

背景の絵も美しく、夕暮れが特に綺麗だと思います。

 

絵の中で気になる事が四点あります。

まず立ち絵表示時の背景なのですが、色の塗がやや雑で、

妙に部屋が狭く見えるのが気になります。

次に絵の中にはかなり浮いている絵が存在していて、

PS2版で付け足されたと思しきCGは元のものと比べて

歴然としたクオリティの差があり、

はっきり言ってしまうと従来のものよりかなり見劣りしてしまっています。

そして主人公の顔年齢のバラつきですね。

大きく3タイプあり、和泉、雪、花梨のCGで

幼い、中間、大人っぽいといった

バラつきがあるのが非常に気にかかりました。

最後に気になるのが立ち絵です。

衣装バリエーションはあるのですが、

衣装ごとのポーズバリエーションは皆無です。

なかなか出来の良い立ち絵なので非常に残念ですね。

 

 

CGの枚数はおまけと差分抜きで78枚。

アルバムモードでは差分や同じCGでも別表記されているものがありますが、

差分だろうと思われるものは一枚と数えています。

差分はそれなりの枚数で、一部異常に差分の多いCGがあります。

全体的なボリュームはやや短めなものの、

少し物足りない枚数ですね。

プレイ中は枚数の少なさより見劣りするCGや

主人公のバラつきのある顔の方が気になっていましたが、

もう10〜20枚ほど欲しかったところです。

 

 

 

プレイ時間はシステムできっちり表示されるため、正確な時間で30時間。

CG、エンディングはコンプリートしていますが、

テキストやシーンタイトルのコンプリートはしていません。

1ヒロイン数時間といったコンパクトさで、

テンポ良く、飽きさせないようにストーリーを追っていけるのは良かったですね。

不思議な世界観であり、独特な世界に迷い込んで、

はっと夢からさめたような気持ちがします。

読後はなんとも言えない、蛍が闇夜に儚く光る残像を見たかのような感じで、

あれはどうだったのだろうと考えさせられるものがあります。

 

記憶喪失、日本神話、民俗学といったモチーフが好きで、

考察するのが好きという方ならばお勧めのゲームです。

今現在ならばPSP版が出ておりますので、

手軽さでいえばそちらの方がお勧めでしょうか。




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