車輪の国、向日葵の少女

 

一言レビュー

罪とは何か?

 

グラフィック 8点
シナリオ 9点
ボリューム 8点
快適さ 9点
満足度 9点
総プレイ時間 44時間
総合評価 90点

 

 

それはどこかしら日本に似た世界。

何か罪を犯すと刑務所に入れられるのではなく、

犯した罪に関連する特別な義務を負わされる世界。

そしてその義務を破った場合、強制収容所に入れられることとなる。

義務を負わされている人物が義務に違反していないかを監視し、

義務に関する指導を行い、罰を与え、

また本人が反省し再犯がないと思われる場合、義務の解消手続きを行えるのが

「特別高等人」といわれる職業の特権階級者だった。

 

特別高等人の試験のほとんどを上位の成績でクリアした森田賢一が、

最終試験に臨むために訪れた険しい山脈に囲まれた田舎町。

それは彼が過去に住んでいた所であり、

7年前に彼の父、樋口三郎が国に対してテロを起こし、

それに協力する人物が多数出たことにより、

多くの罪人が生まれたところだった。

7年前法月将臣に助けられて偽りの戸籍を与えられ、

樋口健から名を変えられた人物が当の森田賢一。

 

冷酷で非常に優秀な特別高等人、

法月将臣が今回の最終試験の試験官であり、

集合時間まで村の入り口近くの向日葵畑で彼を待つ間、

異性と接触してはならない義務を負わされた少女と出会った。

ずっと、ずっと、ある人が帰ってくるのを待ち続けているという少女は、

かつての幼馴染だった。

 

 

という、一見日本に似ているようでいて、

ある特殊な世界観のある国で、

犯罪とは、罪人とは、社会とは…といった、

重いテーマをモチーフに描かれたストーリーです。

 

可愛らしい絵柄に相反してその主眼に置かれていることは、

冷たく、重く、どこまでも非情です。

私たちから見れば罪ではないと思われるような個人の思想や、

親のしつけで逆らうことを許されない義務を負わされる少女たちを見ていると、

胸に重くずっしりとのしかかるものがあります。

 

試験の一環として三人の少女の義務を解消すべく、

彼女たちがなぜその義務を負わされたのかという

抜本的な解決に乗り出すのですが、

これが中々一筋縄ではいきません。

所々袋小路に嵌ってしまったり、少女達の激しい抵抗にあったりして

紆余曲折の上なんとか解決してゆくのですが、

今まで幾年も淀み、重くわだかまっていたものを

吹き飛ばすにはある意味激しい起爆力が必要であり、

いざという時、事態が目まぐるしく動き出した時の

主人公の目を見張る行動力が凄まじいです。

当初はその奇態な行動や気違いじみたセリフを吐く主人公に

プレイヤーが度肝を抜かれるのですが、

ストーリーを進めていくと、冷静で非常に頭が良く、

行動力が優れている部分がどんどん光っていきます。

 

またストーリー序盤から張り巡らされている複数の伏線、

終章近くから終章で畳み掛けるように明かされる

特殊な世界観を使った、アッと言わせる

叙述トリックには舌を巻くものがありました。

この大どんでん返しはまさに目からうろこであり、

世界や一般常識の崩壊という、

プレイヤーの思い込みを利用したトリックは素晴らしく良かったと思います。

 

ストーリーの練りこみは綿密に仕上げられており、

そこは絶賛したいのですが、

テーマ自身が罪と罰をメインに描いているので、

人を選ぶ作品になっています。

こういう暗いストーリーが苦手な人には向かないでしょう。

また、本作で最大の問題であるのが、

なんと本編のシナリオの95%以上が共通ルートである、ということです。

どのヒロインとでもほぼ同じストーリーをたどることになり、

エンディングと途中で差し挟まれる恋人らしい会話が違うだけで、

ほとんどが共通ルートとなってしまっています。

ですので、途中の選択肢から他のヒロインルートに進んでも、

大部分が既読文章になってしまっています。

スキップ自身は早くて快適なのですが、

共通ルートが30時間ほどありますので、

途中セーブを利用しても、他ヒロインルートでの未読文、

エンディングを全部見るには1〜2時間ほどかかってしまいます。

ですので、CGにこだわりがないのでしたら

誰か一人のヒロインだけでも良いかと思われます。

それでも結構ボリュームがあるのですが。

 

そして本編を踏まえて是非ともプレイすべきは

選択肢のないキネティックノベル形式の法月編です。

本編よりずっと短く、7時間程度でしたがコンパクトにまとまっており、

ドラマティックなストーリーが素晴らしかったです。

本編あってこその法月編なのですが、終盤近くは

熱い展開が待ち受けています。

良くここまで脇の人物を描き切ったと感心してしまいました。

 

 

システムはコンパクトながら快適です。

いるべきところはきちんと押さえたシステムですね。

自動クイックセーブあり、テキストから遡ってのローディングも可能、

セーブシステムもPSPにしては大変優秀で、

プレイタイム、セーブ日時、その時のCG、セリフが表示されます。

システム表示時もとても優れており、

シーンタイトル、トータル既読率、シーン既読率、

総プレイ時間表示、各システムにアクセスするのに

ショートカットキーがほとんどありと、

有るシステムのほとんどは快適に作られています。

この辺は長くアドベンチャーを開発してきた会社だけあり、素晴らしいですね。

テキストの文字を変えられないのと、

オートモード時の待ち時間が3タイプしか選べないこと、

メモリインストールがないために

ボイス等のローディングが頻繁に入るのが難点でしょうか。

 

 

 

グラフィックは、萌絵系なのですが、やや古臭さのある絵柄。

現時点で7年前の作品ですのでこの辺は仕方がないかもしれません。

そして目元にやや癖があります。

また、少女、少年はいいものの、壮年を描くのが苦手らしく、

渋みを帯びた格好良さを上手く描けていないのが非常に残念です。

CGは比較的安定しているものが多いのですが、

一部絵崩れがあります。

そしてヒロインの立ち絵は表情パターンが多く、

ポーズバリエーションもそれなりのですが、

ストーリーの設定上衣装が一人ひとつしかないのが寂しいです。

 

CGの枚数は差分抜きで128枚。

予約特典やパッケージイラストなどのおまけイラストが内14枚で、

実質的にゲーム内で使われたCGは114枚、

総CG枚数は248枚ですので、差分は普通〜やや少ない目でしょうか。

ボリュームから見るとそれなりの枚数で特に問題ないと思います。

 

 

プレイ時間は44時間。

本編が36時間半、法月編が7時間強です。

全エンディングクリア、全シーンタイトル、全CGを回収しています。

メッセージ既読率は98.9%で全部は回収していません。

 

プレイ後に読後感が残るシナリオでした。

全体的に暗く、重く、義務という名の罰がのしかかってくるものがありましたが、

非常に素晴らしいストーリーでした。

終盤での大どんでん返しや叙述トリックも目を見張るものがあり、

こういうタイプが好きな方にはお勧めしたいです。

ただし、犯罪や暴力といった暗い側面を

丁寧に描いているので、人を選ぶ作品です。




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